天槍のユニカ



剣の策動(5)

 しかし、その前にノックもなく扉が開いた。
 部屋の主人が戻ってきたのかと緊張したライナだったが、入ってきたのは隊長とよく似た赤毛の青年だった。敬礼しかけていたライナは不愉快そうに眉を顰めた。
「隊長さん、いる? いねーな。お疲れローディ。じゃっ」
「おい、待てよ」
 それだけ言って扉の向こうへ引っ込んで行こうとしたルウェルを、ライナは鋭く呼び止める。
「ノックもしないで入って来るなよ。公国の騎士殿」
 相手の気に障るのを承知の上でライナは言った。
 すでに国王の御前に跪き、王家に仕える騎士になることを誓ったルウェルを公国の°R士と呼ぶのは不適当である。しかしルウェルはそれが自分のことだと認識したようで、ちょっと呆れた顔で立ち止まった。
 ディルクのことが気にくわないライナは、必然、派手に登場して当たり前のように王太子付きに任じられたルウェルのことも気にくわない。
 その人事が贔屓にほかならないからだった。ゆえに、ルウェルが近衛の兵舎に入ったその日からライナは彼に食ってかかっている。
「殿下の使い走りか?」
「まーな、カミルは俺が撥ねちゃって休養中だから」
「騎士が侍官の真似事をさせられるとは嘆かわしいな。それじゃ、王太子付きが名誉な役目とも言い切れない」
「あ、じゃあ別に王太子付きはやりたくねーの?」
「なに?」
「あと三人は王太子付きに引っ張ってきたいってディルクが言ってたからさぁ、ライナがやりたそうだぜって言っておいたんだけど。つーか、やりたかった王太子付きを俺がやってるから、俺に突っかかってくるんだろ?」
「なっ、違う!!」
 図星を突かれた恥ずかしさからライナは怒鳴るしかない。
 自分では認めていないが、ライナの不満の原因はひとえにそれだった。
 ディルクはライナに見向きもせず、しかも隊を取り上げようとしている。家柄もよく、隊長からも取り立てて貰えているはずの自分はそこそこ目立っているはずだ。
 それなのに無視されているのが腹立たしいのだ。
「余計なことを! 誰があんな女の息子に仕えたいもんか!」

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