天槍のユニカ



剣の策動(4)

 これも恋人がいたことのないライナの嫉妬が半分ほど混ざった批難だったが、とにかくライナは、ディルクがラヒアックの実権を奪っていくのが許せない。それゆえいくらでもディルクの粗をほじくり出してやるという心づもりだ。
 何か言葉を返せばライナの喚きも延々と止まらないと思ったので、ローデリヒはもう無視することに決めた。
 聞いてくれる相手がいなくなったと悟ったライナは不満の吐き出し口を失って再びむくれ、ローデリヒの机に座り直した。
「ちっ、クヴェン殿下が身罷られてからろくなことがない。ローディはけがをするし、新しい世継ぎは軟弱者だし、その軟弱者に隊は引っ掻き回されそうだし……全部あの女のせいだ」
 ライナは低く唸り、剣の柄を撫でた。
 あのまま娘が抵抗したことにして、喉に剣を突き立ててやればよかったと今さら惜しむ。『天槍の娘』をこの城から排除したとあれば大きな手柄になったかも知れない。
 誰にも咎められることはあるまい。たとえ王のお気に入りでも、王太子の愛人になっていても、大逆の罪までは庇えないだろうから。
「もうじきいなくなるさ。お前の働きがあの魔女の罪を明らかにする。それこそ近衛の働きだ。同じ騎士だった者として誇りに思うぞ」
「ローディ……だった≠ニか言うなよ。俺はまだ認めてない!」
「お前に認められなくても、騎士号を返上することはもう決まった」
「……」
「そんな顔をしないでくれ。悪いことをしている気分になるじゃないか」
 悲しく心細そうなライナの眼差しはまるで迷子になった子供のようだ。
 近衛騎士に任じられたといっても、やはり彼は高官の息子で、苦労知らずで、実戦経験もないのでどうしても甘ったれである。
 今後、同僚たちがライナを育ててくれることに期待しながらローデリヒはわざと冷たく視線を逸らした。
「ここは休憩室じゃないぞ。早く持ち場に戻れ」
「ふん、分かったよ」
 ライナは舌打ちし、腹立たしそうに言い捨てて机を降りる。まだもの言いたげにローデリヒを振り返るが、彼がこちらを見ないようにしていることくらい分かるので、気持ちがもやもやするまま出て行こうとした。

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