天槍のユニカ



剣の策動(1)

第3話 剣の策動


 
 十九歳のライナは最年少の近衛騎士だった。彼の剣の腕を高く買った伯父が、古くからの友人であった近衛隊長にライナを強く推薦したからというのが、この歳で近衛入隊が叶った大きな理由だ。
 小隊も一つ任され、ライナはやる気に溢れていたがいかんせんまだ若い。自分の隊もまとめ切れていないのが本人も自覚していない実情だった。
 彼は部下がユニカの部屋から押収した宝飾品を自分たちの懐に入れていることに気づかないまま報告へやって来た。
「なんだ、ローディしかいないのか」
 ライナは近衛隊長の執務室に入るなり緊張を解いた。中で仕事をしていたのは四つ年上の同僚だけだったからだ。
「隊長なら殿下のところへ行かれたが、何かあったか?」
「ああ、任務完遂のご報告にあがった」
「命令書は?」
「ある」
 ライナは手を止めたローデリヒのもとへ一枚の紙を持ってきた。得意顔である。
 ラヒアックがいれば決して許されないことだったが、彼は命令書を広げるとローデリヒの机にどっかと腰掛けた。
「『天槍の娘』のところへ行っていたのか?」
「おう、ガサ入れ。あの女、意外に大人しかったな。もっと抵抗するかと思ったが」
 本人や侍女に剣を突きつけたことをわざわざ言わないが、ユニカはあれしきのことで神妙になり、不満そうにしながらもライナの隊が部屋を引っ掻き回すのを黙って見ていた。もっと刃向かわれると踏んでいたので、あの手応えのなさは少々物足りなかったと思えてしまう。それもわざわざ口にはしないけれど。
 ライナの言葉を聞きながら捜査の理由を読み、ローデリヒは目を細めて笑った。
「押収したものはすべて指示通りに運んだぞ。けど、なんで――」
「隊長の署名は俺が貰っておくよ。ご苦労だったな」
「ん、……ああ、頼んだ」

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