追想の場所(13)
「どうして、私の部屋に……」
「図書館で騎士に会っただろう。あれが私付きの騎士で、君が泣いていたと言うから様子を、」
かつん、かつんと、ディルクの長靴(ブーツ)が岩の床を叩く。その音がする度に目の奥で青白い光が弾ける。
だめだ、抑えきれない。
そう思ったユニカがきつく目を瞑った瞬間、ぱしんっという乾いた音と一緒にディルクの眼前を稲妻が走った。
彼は再び足を止めたが、稲妻が彼にあたったわけではなかったようだ。ユニカは思わずほっと息をついてしまう。
「威嚇はしていても、私がけがをするのは不本意?」
ディルクが意地悪く笑いながらそう言う。ユニカはしまったと思いながら顔を背けた。
「君は故意に人を傷つけられるような子じゃない」
「そんなこと、あなたが知るはずが……」
反論しようと顔を上げたユニカは息を呑んだ。一気に距離を詰めてきた王太子の手が、自分の左腕を強く握るユニカの右手を掴んだのだ。
「あ、……っ」
驚きに、脳裏の稲光を押さえていた集中力は瞬時に切れる。一際大きな光が頭の中で弾け、同時に鋭く太い光の針が目の前に飛び出していく。
直後、ディルクの左頬のそばで光と熱が弾けた。
彼は一瞬目を閉じるが、すぐに悲鳴をあげたユニカを荒っぽく掻き抱き、その声を封じ込める。
「……!」
呆然とするユニカの周りで、残り火のようにぱちぱちと稲妻が弾ける。
そして、すぐに辺りは静まりかえった。
肩、腰に回された腕の力強さと、目の前にあるディルクの金の髪と、あまりに近い他人の香りに、ユニカの身体はおののき動けなくなる。
力≠抑えきれなかった。今、飛び出したそれが王太子にあたったのではないか。
「おーい、なんかすげぇ音がするけどー?」
確かめることさえ躊躇してしまうほどの不安で硬直していたユニカは、岩屋の中でこだましたルウェルの声でようやく身体を震わせた。思い出したようにディルクの腕から抜け出そうともがけば、彼は子供をあやすように髪を撫でてきた。
- 226 -
[しおりをはさむ]