天槍のユニカ



追想の場所(12)

「鍵が掛けられていたからな。外の兵士は君がやったのか」
「……」
 返事は返ってこなかったが、それ以外に考えられない。どうやったのかまでディルクの想像は及ばなかったけれど、これはちとまずいなと思った。兵士に危害を加えたとなると、彼らが気を失っただけとはいえ王城への敵対行為と見なされる。
 騒ぎにしないためにも、エリュゼが言うようにユニカを保護する必要があるな。
 そう考えながらディルクが最後の一段から足を踏み出そうとした瞬間、バチバチと音を立てて薄闇の中に青白い光が弾けた。彼は思わず足を止める。
 その時、祭壇の前で不意にユニカの影が崩れた。祭壇に手をつき、背中を丸めて痙攣するように震えているのが見える。
「具合が悪いのか?」
「お願いだから出て行って。王冠を荒らしたりしないわ、私はしばらくここにいたいだけよ」
 ユニカが唸るのと同時に、また離れたところで光と音が弾けた。ディルクは慎重に何かが弾けた闇の様子を覗うが、その後は変化がない。
「君の周りで弾けているのは『天槍』と謂われる稲妻か。威嚇しているつもりかな」
「……そうよ。黒こげになるのは嫌でしょう? 王太子殿下」
 ユニカは喉を振るわせながら笑う。
 胸の奥が熱く、何かが溢れ出てきそうになるのを堪えるのに精一杯で、本当は会話どころではない。感情が乱れているせいだ。落ち着きかけていたのに、ディルクの出現で動揺している心が抑えられない。
 ユニカは祭壇に手をついている方の腕を、力一杯反対の手で掴んでいた。この力を少しでも緩めれば、また小さな稲妻が辺りに飛び散りそうだ。
 威嚇ととってくれたのならそれでよい。誰にも近づいて欲しくなかった。
 救いたい人を救えない、ユニカに何も与えないこの異能を見られるのが嫌だ。
 ユニカの影が被さり、ディルクの表情の半分は暗闇の中だ。片方だけ見える彼の青緑の目はユニカの言葉に対して何の反応も示さなかった。それどころか、彼は一歩こちらへ足を踏み出してくる。
「部屋の様子を見てきた」
 部屋とはどこの部屋のことなのか、聞き返さなくても分かった。大きく目を瞠ったユニカは一歩後退って、けれど祭壇に退路を阻まれる。
「近衛兵が荒らしていったそうだな。残念だが私にも理由は分からない」

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