天槍のユニカ



追想の場所(11)

 扉の隙間から廟の奥で微かに明かりが揺れているのが見えた。祭壇に火が灯っているようだ。ユニカが点けたのだろうか。
 それを確かめるためにもディルクが廟へ降りようとしたところ、ルウェルは抗議しながら足許に転がっている衛兵の一人を剣の先でつついた。
「ムリムリ。雪降ってんだぜ? 寒いなー、風邪引くなー。こいつらも、このまま雪積もらせて置いといたらほんとに死ぬかも」
「ここに入れるのは王家の人間だけだ。少しは遠慮しろ」
「いーじゃん、誰も見てないんだから。階段で待ってるし、こいつらも待避させとくし。とりあえず屋根の下までな」
 ディルクが是と言う前にルウェルは衛兵の一人を担ぎ起こしている。
 兵の生命を盾に頼み込まれては仕方がない。これは報告しなければよいと考えながら、ルウェルがのびた彼らを階段に寝かせて被った雪を払っているのを横目に、ディルクは廟の中へと続く階段を下りた。
 曇天から注ぐ光は奥まで届かず、階段を降りきるあたりでは足許が真っ暗だった。
 そこで立ち止まり顔を上げると、明かりを灯した祭壇を背に人影が一つ、佇んでいる。
「ユニカ?」
 顔はよく見えなかったが、まっすぐに流れる髪とドレスの影の形で相手が女であることは分かる。そしてユニカはここへ逃げた可能性が高い。エリュゼがそう言っていた。
 亡き王妃クレスツェンツはユニカの養父の親友であり、また王城へユニカを引き取った、ユニカにとっては二人目の親に等しい存在であるから、と。
 王妃の実家に縁が深いプラネルト伯爵が言うのだ。ユニカと王妃の親子のような関係は嘘ではないだろう。
 ならばなぜ、王妃は病で死んだのだろうか。
 ユニカは冷たく傲慢に振る舞おうとしているが、それは感情を表に出さないための鎧のような演技である。親に等しい人間を見殺しにするような真に冷たい娘ではないと、ディルクは読んでいるのだが。
 きっと、彼女は王妃を助けようとしたはずだ。王に血を提供するのとはまた別の感情や理由をもって。
 ならば、なぜ?
「扉を壊したのですか」
 低く響いてきたのは紛れもなくユニカの声だった。心なしか鼻声である。それを聞いて泣いていたのだなとディルクは確信した。

- 224 -


[しおりをはさむ]