天槍のユニカ



追想の場所(10)

 王冠の廟は、城の中において王の後ろ姿と都を眺めることが出来る内郭の北の外れにある。
 主に政治と儀式の場であるドンジョン、その奥の国王の住まい、そのさらに北側の一角に岩を削って作られたドームがあり、扉の奥には階段が設えられていた。
 そこに立ち入れるのは王家の者のみで、常に衛兵が入り口を守っているはずだった。
 しかし、ディルクが廟へたどり着いた時、衛兵らは扉の脇に倒れ、彼らの上にはうっすらと雪が積もっていた。生死を確かめると、どうやら気絶しているだけのようだ。
「寝てたら凍死するぞー。……だめだな、起きねぇ」
 ルウェルが衛兵の頬を叩いているうちにディルクは廟の扉に手を掛けてみる。表にある錠前は壊されていたが、うっすらと空く隙間からは中で掛け金が落ちているのが見えた。誰かいるようだ。
「こいつらユニカにやられたんじゃねぇの? 特にけがはしてないみたいだけど……。凶暴だと思ったぜ、兵士の後ろもとれるほど強いんだな」
「ばかを言ってないでこの隙間に差し込めそうなものを探せ。中に簡易の鍵があるみたいだ。うまく持ち上げれば外せる」
「そんなもん、これで充分だろ」
 ルウェルは抱えていた見張りの兵士を捨て置き、すらりと抜き身を放った。
 嫌な予感に眉を顰めたディルクは騎士に押しのけられる。そして思った通り、ルウェルは奥に少しだけ動く扉を足で押さえ、出来た隙間に躊躇なく剣先を突き立てた。
 板金で保護された扉は堅く、なおかつその隙間はルウェルの剣を差し込むにはいささか狭かった。耳障りな金属音が辺りにこだまし火花が散る。
「んー、ちょっと狭いな。でも勢いつけたらいけそうだ」
 ルウェルは何度となく剣先を扉の隙間に叩き付ける。一見雑な行為ではあるが、彼の剣は同じ場所を正確に突いていた。鋼は徐々に扉の金属を凹ませ、削っていく。
「そんな使い方をしているからすぐに刃がぼろぼろになるんだろう」
「刃毀れしたら研げばいいの!」
 一際力を入れた突きがついに扉のわずかな隙間を貫通して、向こう側にあった掛け金を弾き飛ばす。広い空間に金物が転がる音が響くのに遅れて、扉が軋みながら開いた。
「開けたぜ」
「壊したと言え」
「最初から壊されてたじゃん」
「……。ここで待ってろ。中を見てくる」

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