追想の場所(8)
この血のために多くのものを喪ったのに、この血はユニカに、復讐以外の何も与えてくれない。
王妃の喪が明けきらぬ内に、ユニカはひとり考え、結論を出した。
自分に宿った異能には、もうなんの望みも持たない。
ユニカはただ、王の治世の終わりを黙って待つ。それだけだ。
* * *
西の宮を抜け出したディルクとルウェルは、侍女達から借りた外套を被りながら物陰を縫うようにして移動してきた。雪が衛兵の視界を妨げているのはいいが、こちらからも相手の陰を見落としやすい。
「ここどこ?」
彼らはそれぞれ柱の陰に隠れて兵士が通り過ぎるのを待ち、再び合流して柱廊(コロネード)を歩いていた。
ドンジョンへ入れば衛兵だけではなく官吏たちの目もある。先ほどは仕事を放って部屋を抜け出してきたので、ラヒアックがディルクを探し回っている可能性も大きい。
見つからないように細心の注意を払いながら、ディルクは先へ先へと急いだ。
「ドンジョンの外れだ。まだ人が多いな。やっぱり外を迂回した方がいい」
「俺、もう濡れるの嫌だ」
「だったら先に執務室へ戻ってろ。俺の代わりにラヒアックの説教を受けて足止めして来い」
「……そっちの方が嫌だ」
柱廊を出て建物の裏へ回るディルクのあとを追いながら、ルウェルはしょんぼりと呟いた。
「つーか『ユニカ』って何者だよ。何で西の宮に住んでるんだ? シヴィロに王女なんていなかったはずだろ」
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