天槍のユニカ



追想の場所(1)

第2話 追想の場所

 

「見違えたぞユニカ! なんて可愛らしい!」
 王妃は、夏の陽射しのように明るく笑う人だった。
 巻き髪を高いところで一つにまとめている彼女の姿は凛として力強く、ユニカに向けられる屈託のない笑みにはいつもあたたかな慈愛が滲んでいた。
 初めてユニカを見た時、彼女は手放しで喜び、煤で汚れていたユニカを風呂に入れ、ゆったりとした子供用のドレスを着せてくれた。そして呆然としたままのユニカを化粧台の前に座らせ、高価な薔薇の香油を染みこませたブラシで丹念に髪を梳かしながら、少しも表情を変えることのない人形のような少女に辛抱強く語りかけ続けた。
「お前は薔薇の香油などつけなくても、不思議なよい匂いのする子だね。アヒムの手紙にはお前の自慢話ばかり書いてあった……会えて嬉しいぞ、アヒムの可愛い娘=v
 王妃クレスツェンツが、ユニカにとって二人目の親である。
 出会ったのは、疫病で混乱を極めるシヴィロ王国は南部、ビーレ領邦の都ペシラの太守館でだった。
 王妃が生きていた頃、彼女がユニカの支えだった。
 王妃はユニカを王城に迎え、自ら教師となって、貴族の子女と同等の教養を与えるべく様々なことを教えてくれもした。
 彼女は多忙だったのでともに過ごした時間はそれほど多くはないけれど、亡くなった養父のことをよく知り、ユニカの名を優しく呼んで慈しんでくれたクレスツェンツは、ユニカにとって紛れもなく母親≠セった。



 涙を堪えようとすればするほど頭の中が熱くなり、ユニカの鼓動が乱れるのに合わせて周りでぱちぱちと稲妻が弾けていた。
 半地下の冷たい岩の廟の中に並んでいるのは、歴代の王とその正妃たちの冠である。王族は、死後アマリア郊外にある葬祭堂の地下王墓に埋葬されるが、歴代の君主とその正妃が生前に被った冠は王城内の廟に保管されていた。

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