天槍のユニカ



追想の場所(1)

第二話 追想の場所


「見違えたぞユニカ! なんて可愛らしい!」
 暗い色の赤毛の女性だった。そして夏の日射しのように明るく笑う人でもあった。
 ゆるい巻き髪を高いところで一つにまとめている王妃の姿は凛として力強く、屈託のない笑みには暖かな母の慈愛が滲む。
 彼女はユニカを見たとたん手放しで喜び、煤で汚れていたユニカを風呂に入れ、ゆったりとした子供用のドレスを着せた。そして呆然としたままのユニカを化粧台の前に座らせ、高価な薔薇のオイルを染みこませたブラシで丹念に髪を梳かしながら、少しも表情を変えることのない人形のような少女に辛抱強く話しかけ続ける。
「お前は薔薇のオイルなどつけなくても、不思議な良い匂いのする子だね。アヒムの手紙にはお前の自慢話ばかり書いてあった……会えて嬉しいぞ、アヒムの可愛い娘=v
 この王妃クレスツェンツが、ユニカにとって二人目の親である。
 出会ったのは、病で混乱を極めるシヴィロ王国は南部、ビーレ領邦の都ペシラの、太守館であった。


 涙を堪えようとすればするほど頭の中が熱くなり、ユニカの鼓動が乱れるのに合わせて周りでぱちぱちと稲妻が弾けていた。
 半地下の冷たい岩のドームの中に並んでいるのは、歴代の王と、その正妃たちの冠である。王と、玉座の隣に座ることを許された正妃たちは、死後アマリア郊外にある葬祭堂の地下王墓に埋葬されるが、彼らが生前に被った冠は、王城内の廟に保管されていた。
 最奥にある二つの冠が、初代国王と王妃のもの。手前にある冠ほど新しい。
 ユニカは祭壇から一番近いところにある王妃の冠の前で泣いていた。
「……っふ、ぅ、……く」
 分かっている。自分はこの城にいてはならない者。無為に王家の財を食み、王の名誉を汚す者。
 誰から攻撃されても、蹂躙されても仕方がないことだ。だからユニカは何も感じないふりをして、傲慢に振る舞っているしかない。分かっているが、ユニカの砦はそれほど堅固ではなく、どんな攻撃にも耐えられるわけではなかった。
 王妃が生きていた頃は、彼女がユニカの支えになってくれていた。
 ユニカを王城に迎え、自ら教師となって、貴族の子女と同等の教養を与えるべく様々なことを教えてくれもした。彼女は多忙だったのでともに過ごした時間はそれほど多くはないけれど、ブレイ村で亡くなった養父のことをよく知り、ユニカの名を優しく呼んで慈しんでくれたクレスツェンツは、紛れもなく母親≠セった。
 虚勢を張っていられなくなったとき、ユニカはここへ逃げた。たった一年前に亡くした、この血で救えなかった人の温もりを求めて。

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