天槍のユニカ



追想の場所(2)

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 クッションの効いた椅子に身体を沈めるようにして座るクレスツェンツ。拍子を取る彼女の手は、すでに骨と皮だけになっていた。
 座っているのも辛いはずなのに彼女の表情は明るく、ユニカが扇と薄絹のストールを振って踊る姿を楽しげに見ている。
 しかし肌の色は見る者をぞっとさせるほど青白くくすみ、艶のあった巻き髪も見て分かるほどにぱさついていた。
 最後にひらりと扇を翻し、ユニカは舞を終える。すると広いホールにはクレスツェンツの弱々しい拍手だけが響いた。
 ユニカは足早に王妃の側へ駆け寄り、穏やかに笑う彼女の脚に縋りついてうずくまる。そんなユニカの髪を、クレスツェンツは満足そうに撫でた。
「さて、どこで披露しようか。この夏の大霊祭で、王城の舞手たちに混じってみるか? きっと皆、舞踏の女神ヒイレニアが舞い降りたと驚くに違いない」
 クレスツェンツの膝に顔を埋めたまま、ユニカは激しく首を振る。
「恥ずかしがり屋だこと」
 くすくす笑う王妃の声が、ユニカは我慢ならなかった。どうして笑うのだと怒りがこみ上げてくる。髪を撫でてくれる王妃の手にはかつてのような瑞々しさがまったくなくて、その手に撫でられると、彼女の命がもはや残り少ないことを思い知らされる。
 このまま黙って泣くのを堪えているだけでは、二人目の大好きな養い親が死んでしまう。
 ユニカは意を決して顔を上げた。滲んできた涙をぬぐい、クレスツェンツをきっと見つめる。
 クレスツェンツは首を傾げながら、やはり笑っていた。ユニカの涙の理由など知っているだろうに。
「王妃様、どうかお願いです。私の血を飲んで下さい」
「ユニカ……突然何を言い出すのかと思えば……そんなことが出来るものか。友から預かった可愛い娘の肌に傷をつけるなんて」
 クレスツェンツは困惑に表情を歪める。そしてすぐに溜息をつきながら左右に首を振った。
「私の傷なんてすぐに治ります! 王妃様のご病気だって……!」
 ユニカは堪えきれなくなり、手と同じように痩せ細ったクレスツェンツの脚に顔を埋め、ついに泣き出してしまう。
 泣かずに、毅然としていなければ王妃は説得出来ない。そう思っていたのに、予想通り彼女に提案を拒まれたら、とても我慢できなくなった。
 二人目の親が死ぬ。目前に迫ったその事実が、ひたすら恐ろしく、悔しくて。そしてそれを食い止める力がユニカにはあるのに、クレスツェンツはユニカのためよと言ってこの手をとってはくれない。
 嫌だ、嫌だ。
 大好きな人が、また目の前で死んでしまう。
 クレスツェンツの前でさえ、なかなか素直に感情を吐露出来ないユニカが声を上げて泣いている。戸惑う自分に苦笑しながら、クレスツェンツは何も言えずにユニカの髪をなで続けていた。

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