天槍のユニカ



追想の場所(2)

 最奥にある二つの冠が初代国王と王妃のもの。手前にある冠ほど新しい。
 ユニカは祭壇から一番近いところにある王妃の冠の前で泣いていた。
 自分はこの城にいてはならない者。無為に王家の財を食み、王の名誉を汚す者。
 分かっている。誰から攻撃されても、蹂躙されても仕方がないことだ。だからユニカは何も感じないふりをして傲慢に振る舞っているしかない。
 しかし、分かっていてもユニカの砦はそれほど堅固ではない。
 近衛騎士の乱暴で容赦のない振る舞いに虚勢を張っていられなくなったユニカは、ここへ逃げてきた。
 たった一年前に亡くした、この血で救えなかった人の温もりを求めて。

 
     * * *

 
 クッションの効いた椅子に身体を沈めるようにして座るクレスツェンツ。拍子を取る彼女の手は骨と皮だけになっていた。
 座っているのも辛いはずなのに、彼女の表情は明るく、ユニカが扇と薄絹のストールを振って踊る姿を楽しげに見ている。
 しかし、肌の色は見る者をぞっとさせるほど青白くくすみ、艶のあった巻き髪も見て分かるほどにぱさついていた。
 ユニカは最後にひらりと扇を翻し舞を終える。すると広間にはクレスツェンツの弱々しい拍手だけが響いた。
 ユニカは王妃のもとへ駆け寄り、穏やかに笑う彼女の脚に縋りついてうずくまる。そんなユニカの髪を、クレスツェンツは満足そうに撫でた。
「さて、どこで披露しようか。この夏の大霊祭で、王城の舞手に混じってみるかい? きっと皆、舞踏の女神ヒイレニアが舞い降りたと驚くに違いない」
 クレスツェンツの膝に顔を埋めたまま、ユニカは激しく首を振る。
「恥ずかしがり屋だこと」
 くすくす笑う王妃の声が、ユニカは我慢ならなかった。どうして笑うのだと怒りがこみ上げてくる。
 髪を撫でてくれる王妃の手にはかつてのような瑞々しさがまったくなくて、その手に撫でられると、彼女の命がもはや残り少ないことを思い知らされる。

- 215 -


[しおりをはさむ]