天槍のユニカ



矛先(15)

「まずはお部屋を片付けましょう。あらかた片付いたら、わたしがユニカ様を探しに行くわ。フラレイ、嫌な思いをしたのね。辛いでしょうけど、近衛の方々がいらした時の様子を教えて」
 フラレイは鼻をぐずぐずいわせながらも頷く。
 三人は部屋の中へ戻るとそれぞれ箒を手にして、エリュゼの指示のもと、羽毛を部屋の隅に追い詰めていくことにした。その作業をしながら、フラレイは時々手を止めて話し始めた。
「いらしたのは騎士様がひとりと、ほかに十人くらいの近衛兵の方々よ。突然入って来て、ユニカ様とわたしに、中を検めるから外へ出ろっておっしゃって……」
「十人?」
 エリュゼが確かめると、フラレイは目許を拭いながら首肯した。
 恐らく、やって来たのは騎士を含めて十二人、一つの小隊だろう。エリュゼはそう推測する。
 その秩序に則ってやって来たということは、西の宮へ押し入った近衛兵たちはユニカへの私的な嫌がらせではなく、公の命令の下に動いていたということだ。
 近衛兵に命令を出せるのは? 国王以外に、名前は二人浮かんでくる。
 エリュゼは手が軋むくらいに箒の柄を強く握り、こみ上げてくる怒りを堪えた。
「これは検めた≠ニいう状態ではないわ」
 引き裂かれ、倒された家具。たくさんのものが盗まれている。まるで強盗が押し入ったあとだ。
 吐き捨てるように言った彼女の声が不機嫌絶頂のユニカ並みに恐ろしかったので、リータとフラレイは思わず息を呑んだ。
「証拠を探しに来たんだって、おっしゃっていました」
「証拠? なんの?」
「ユニカ様がお訊きになっても、騎士様は教えてくださらなかったから分からない。それに、ひどいの! 騎士様は剣を抜いて、外へ出ろって脅かしてきて、ユニカ様が言うことをきかないからって、わ、わたしにまで……」
 剣を突きつけられたときのことを思い出し、フラレイは言葉を詰まらせまたぼろぼろと涙を零し始めた。近くにいたリータが背中をさすって宥めてやる。
 なんとなく状況を察したエリュゼは眉間に皺を寄せた。
「誰の言うこともきかないんだもの、ユニカ様は。それは騎士様だって怒るわ」
「でも、わたしの顔に剣があてられたら、ユニカ様は素直に外へ出てくださったのよ。見捨てられるかと思ったけど、ちゃんと助けてくださったの。わたし、今度からもっとちゃんとユニカ様のお世話をするわ。『ロマサフ』も読んでるし、きっとわがままで怖いだけの人じゃないのよ。リータもそうしましょう?」


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