天槍のユニカ



矛先(15)

「殿下、ユニカ様をお迎えに行って下さるなら、もう一つ、お願いしたいことがございます」
「何だ?」
「……そのまま、こちらにはお連れせず、殿下のところでユニカ様をお預かり頂きたいのです」
「――何故だ? 彼女が承諾するとは思えないが」
「近衛兵が、宮の入り口にいたと仰いましたね。彼らは、警護のために置かれた兵ではない、それだけは確かです。わたくしが出入りする時には気がつきませんでしたが、恐らく、見張りの兵ではないかと思います。何故見張るのか、その理由が知れません。理由が分かるまでは、ユニカ様を宮へ戻さぬ方が良い気がするのです」
 ユニカに警護はつかない――ディルクが疑問に思っていることの事情を、まるで知っているかのような口振りである。しかしディルクは特に驚かなかった。頷く代わりに、彼はエリュゼの首筋に手を伸ばし、巻かれていたピンクとグレーのスカーフを、女官であることを示すその制服を、静かに奪い取った。
「いいだろう、ユニカは私が預かる。だがその前に聞いておきたい。卿は何故侍女の真似事をしている? プラネルト女伯爵」
 驚いたのは本人ではなく、遠巻きに二人の遣り取りを聞いていた侍女たちだった。と言っても、緊迫した彼らの遣り取りに口を挟めるでもなく、声の漏れそうになった口をそれぞれ塞いで、エリュゼが何と答えるのかを見守るだけだ。
「お調べになったのですか」
「堂々と陛下の執務室にいながら、ばれないと思っていたのか? ユニカ付きのただの侍女が、王の執務室にいるはずがない。さすがに調べるさ」
 エリュゼは身じろぎひとつせず、じっと突き付けられるディルクの言葉を待っている。
「シヴィロ貴族の中では、爵位を持つ女性の当主はたった三人だけだ。先日引退したタールベルク太守・ブリュック女侯爵、女性医官のヘルツォーク子爵。それから、プラネルト伯爵、卿だな?」
 身分を発かれた彼女はその場に跪き、ディルクのコートの裾を取り上げてそこに口づける。帰服の意を示しエリュゼは、王太子の顔を仰ぎ見て言った。
「ユニカ様のこと、どうぞよろしくお願いいたします」





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