天槍のユニカ



矛先(14)

 あちらには立ち入ってはいけないと言われているが。
「そっち、図書館だぞ?」
「途中まで道は同じだ」
「ふーん……?」


     * * *

 
 西の宮へ戻ったエリュゼは、ユニカの部屋の惨状に唖然とした。
 リータと、すすり泣くフラレイが、いつものごとくすこぶる要領の悪い手つきで床を埋め尽くす羽毛を掃き集めていた。
 ユニカが出て行ってからかなり時間が経っていたが、二人はふわふわと舞う羽に苦戦しおり、部屋の状態はさして変わっていなかった。
「何があったの?」
 侍女のまとめ役であり、一番年長で頼りになるエリュゼが戻ってきたと気づくや否や、羽毛を追いかけていた二人は彼女のもとへ駆け寄ってきた。
「こ、近衛の方々が……」
「近衛? 近衛の兵が部屋を荒らして行ったの?」
 頷いたフラレイはそのままエリュゼに抱きついて泣き出してしまった。よく見れば頬に血を拭った跡がある。気になったエリュゼがそこを撫でてやると、フラレイは一層激しく声を上げた。
「どうして近衛の方が? ユニカ様はどこなの?」
「分からないわ。ケーキを切って貰いに調理場へ行っていたら、戻ってきた時にはもうユニカ様とフラレイが追い出されていて。ユニカ様は、片付けておいてとおっしゃってそのままどこかへ……」
 泣きじゃくるフラレイなら少しは事情を知っているらしい。
 エリュゼはフラレイをリータに任せると、羽毛で一杯の部屋へ入っていった。
 カーテンの千切られた寝台の天蓋、引きずり出された衣類や、宝飾品の箱が空になっているのを見て、その遠慮のなさと乱暴さに言葉も出ない。
 エリュゼは胃の辺りが熱くなるのを堪えながら努めて優しく笑い、リータとフラレイを振り返った。


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