天槍のユニカ



矛先(14)

「……随分荒らされている」
「そうではなく!」
 エリュゼは側にあったチェストを叩いて声を荒げた。目を瞠ったディルクは、しかしすぐに尊大に顎を反らし、エリュゼを見下ろす。すると彼女は、大人しく腰を折り、臣下として礼をとった。
「申し訳ございません」
「この部屋を荒らしに来たのは近衛兵。だから私の命令ではないのかと、そう言いたいのか?」
「――はい」
「はっきり言うな? だが違う。確かにこの国の全ての兵を操る権限を私は得たが、まだ実が伴っていない。この部屋の状態も、今ここへ来て初めて知った」
「では何故、この宮へおいでになったのですか?」
「そこの騎士が、図書館でユニカと思しき娘が泣いていたと言うから様子を確かめに、な。だがやはり戻ってはいなかったか。泣いていた原因は分かったが……荒らして行ったとは腑に落ちない。シヴィロ王国の近衛を束ねていたのはあのラヒアックだ。規律はしっかり守られていた。私情でこのような狼藉を働く者はいないはず。もっと適切な言い方があるだろう?」
「はい……騎士様は『証拠を探しに来た』と仰っていたそうです。フラレイが聞いていました」
 部屋の隅で脅えるフラレイたちに微笑みかけると、ディルクは傷つけられ倒されている調度類を見渡して腕を組んだ。
「『荒らして行った』と言いたくなるのは分からないでもないがな。兎に角私には心当たりのない命令だ。ユニカに対してこんな仕打ちをする必要がない。他に近衛を動かせる、陛下にも、ラヒアックにもな」
 エリュゼは、ディルクのその言葉が不服だった。現に、この状況はここにある。思わず上目遣いに王太子を睨み、目が合う前にさっと視線を反らす。
「それで、ユニカがどこにいるか心当たりは無いか? 図書館を飛び出して行ったらしいんだ。他に彼女が行きそうな場所は?」
「図書館の他でしたら、心当たりは一つございますが……」
「教えてくれ。迎えに行こう」
「殿下が、でございますか?」
 エリュゼのその言葉に、いち早く反応したのは暖炉の前で膝を抱え丸まっていたルウェルだった。彼の周りには、溶けた雪がいくつもの小さな水溜まりを作っていた。
「俺はここで待ってる。服乾くまで動かないぞ。これ以上冷えたら風邪引きそうだ」
 炎を見つめているルウェルは知る由も無いが、エリュゼは不快感を露わに、彼の主であるディルクにそれはならないと視線で訴えかける。
「安心しろルウェル、馬鹿は風邪を引かない。それとも役目を全うしない気か?」
「ち、違うけどさぁ」
 ルウェルは大げさに震えて見せたが、既にディルクには相手にもされていなかった。仕方がないので、残りわずかな時間に目一杯暖をとっておこうと、更に暖炉ににじり寄って主たちの会話に耳を傾ける。

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