矛先(16)
「それはよいことだわ。リータにもフラレイにも、ユニカ様への態度は改善して貰いたいと思っていたところよ」
「どうしたの? エリュゼまで……」
エリュゼは笑ってごまかすと、集めた羽毛を袋に詰め始めた。まるで八つ当たりするように乱暴に羽毛を掴んでは袋の中に押し込んでいる。
掃除の手間が増えたことにいらついているだけのようには見えず、リータとフラレイは顔を見合わせ首を傾げた。
羽毛を集め終えたエリュゼは、倒れたチェストや引っ繰り返されたその中身を元通りにするよう指示を出し、自分は窓辺に置いてあるユニカの机を片付けに行った。
ユニカが大切な物をしまっていた抽斗(ひきだし)は鍵に守られ荒らされていなかった。
エリュゼはほっとしつつも不審に思う。
証拠を探しに来た≠フなら、鍵の掛かっているところを怪しんで、壊してでも中を探るものではないのだろうか。証拠≠ニはどんなもののことかは分からないが、机周りにあるもの――例えば誰かと遣り取りした手紙などではないということか。
どちらにしろ、あまりいい予感はしない。
インク壺が倒れていたので机の上もひどいありさまだった。雑巾を用意してこなくてはいけない。
エリュゼが踵を返そうとしたその時、誰かが中庭からテラスへと入り込んできた。
外は静かな大雪。その雪にまみれて真っ白だったが、エリュゼは硝子を叩く彼が王太子だとすぐに気がついた。後ろには同じく真っ白になった騎士を連れている。
目を疑い思考も止まりかけたが、エリュゼは急いで扉を開けた。
「し、死ぬ……!」
ろくに雪も払わず、まずは騎士が部屋に飛び込んで来た。彼は一目散に暖炉の前へ走り、そこで犬のようにぶるぶると身体を震わせて雪を落としている。
「なぜお庭から……?」
部屋へ入る前にきちんと雪を払うディルクに問いかけると、彼は苦笑しながら入っていいかと訊いてきた。部屋の主は不在だが、エリュゼは彼を招き入れた。
「きゃーっ!」
その途端、彼女らの後ろで悲鳴が上がる。振り返れば、ルウェルの深紅のマントに気がついたフラレイが叫びながらリータにしがみついて隠れようとしていた。部屋に押し入って来たのが近衛騎士だったからだろう。
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