天槍のユニカ



矛先(10)

 しかし、その間からははっとするほど白くて真珠のように透明感のある肌と、アイオライトを思わせる紺青色の瞳が現れた。
 頬が濡れている。泣いていたらしい。
 娘はルウェルの出で立ちを確かめてさらに震えた。自分が帯剣していたせいだと思ったルウェルは、近衛騎士であることを示す深紅のマントでさっと剣を隠した。
「どこの女官だ? 具合でも悪いのか? それともいじめられて泣きに来てたか?」
 なかなかの美人だ。それに、立っているこちらからはふくらかな胸の谷間がよく見える。寒い思いをしてここまで来たのも許せる幸運だ。
 名前くらいは聞き出そうという下心を持ったルウェルは、柔和に笑いながら屈み込んだ。娘の涙を拭ってやろうと手を伸ばす。
 すると彼女は途端に目を吊り上げ、ルウェルの手を振り払った。もっと予想外だったのは、娘が隣にあった棚から本を引っ掴み、それで殴りかかって来たことだ。
「いてっ! おいこらっ何しやがる……痛いっての!」
 ルウェルは腕を盾に娘の攻撃を防ぐが、彼女はその間に体勢が崩れたルウェルを突き飛ばし、とどめといわんばかりに両手に持っていた本を投げつけてきた。
「おい! 待てよ!」
 本の角を眉間に食らったルウェルは痛みに悶えながら怒鳴ることしか出来ない。
 彼が伸ばした腕をかわし、娘――ユニカは、濡れた髪とドレスを振り乱して降りしきる雪の中へ再び飛び出して行った。



「なんだその顔は」
 先日カミルが馬に蹴られたのと同じ場所を赤くして帰ってきたルウェルを見て、ディルクは鼻で笑った。
「なんだってなんだよ。つーか笑うな、心配しろよな」
 ルウェルは情けない声を出しながら来客用の長椅子に座り、背もたれに寄りかかって天井を仰いだ。呻きつつ涙と寒さのために垂れてくる鼻水をすすっている。
「だから事情を聞いてやってるだろう。本はちゃんと戻して来たか? その辺の棚に押し込んでないだろうな」
「話題変えるの早くね? 俺まだ事情′セってないんだけど」
「さっさと言え。聞き流してやる」

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