天槍のユニカ



矛先(8)

 すべてのチェストと棚が開けられ、ドレスが床に散乱している。アクセサリーの入っていた箱もすべて引っ繰り返されているが、中身はほとんど見あたらない。
 遠慮した気配もなく下着の類もすべて引きずり出されており、この部屋は一番足の踏み場がなかった。
 寝室も羽毛だらけだった。枕は三つとも引き裂かれ、寝台の天蓋から垂れ下がっていたカーテンも引き千切られて床に落ちていた。
 枕の下に隠してあった本はもちろんない。読み終え、ディルクから贈られてきた箱に収めてあった本もだ。
 寝台のそばのテーブルが倒れ、置いてあった硝子の花瓶も砕けている。それに活けてあったハーブまで持って行ったらしい。あとには数本のラベンダーしか残っていなかった。
 その状況を眺めていたユニカは、白い羽毛の間にラベンダーとは違う薄紫色の花が覗いているのに気づき、それを拾い上げた。
 本と一緒に贈られてきたディルクのカードだ。しおりの代わりに使っていたのだが、これだけ本の間から滑り落ち、気づかれずに羽に埋まってしまったようだ。
 ユニカはカードを握り潰すと、うろうろと歩き回っていた侍女達にぴしゃりと言った。
「片付けておいて」
 彼女らのか細い返事も聞かず、ユニカは足早で部屋を出る。
 目の奥が熱くなってくるのを、唇を噛んで必死に我慢した。

 
     * * *

 
 ふんふんふんと鼻歌を歌いながら、ルウェルはディルクから託された本を抱きしめてたったかと柱廊(コロネード)を走っていた。
 ディルクの紋章と王国騎士のブローチを与えられたから機嫌がいいというわけではない。むしろその逆で、雪の中へ放り出された腹立たしさを紛らわせるため、鼻歌など歌ってみている。
 『王太子付き』という肩書きのもと、ルウェルはディルクの護衛を務めているが、今日の午前の終わりに言いつけられた仕事は、ルウェルが馬で蹴り倒し負傷させた侍従の代わりに使い走りをすることだった。分厚い法令の注釈書を三冊、図書館へ戻してくるという大変重大な仕事だ。

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