天槍のユニカ



矛先(7)

(知ったことじゃないわ)
 そう思ったが、捕らえられた侍女の縋るような視線は避けきれなかった。ユニカは唇を噛みながら部屋の外へと足を向けた。
 兵士達は敵意のこもった目でユニカを睨みながら道を空ける。外へ出ると、後ろから突き飛ばされるようにしてフラレイも追い出されてきた。
「かかれ。貴様らはここで待つんだ」
 騎士の号令で、外で待機していた兵士も続々とユニカの部屋へ雪崩れ込んでいく。
 彼らが中へ入り終えると、騎士は入り口を塞ぐようにユニカの前に立ちはだかった。その後ろでは、兵士が麻袋を広げて王からの贈りものを次々と中へ放り込み始めていた。
 彼らが寝室へ入っていくのに気がつき、ユニカは堪らず口を開いた。
「何をしにいらしたのか、説明くらいしてくださらないの?」
「証拠を探している」
「証拠? 何の……」
「自分の胸に聞くんだな」
 騎士が鼻で笑うのと同時に、絹を引き裂く甲高い音が聞こえた。部屋の中で羽毛が飛び散る。クッションを破っているらしい。
「あんなことまでする必要があるの?」
「さてな。衣装の中もすべて検めろ! 侍女の控えの間もだ!」
 騎士の命令に応える兵士の野太い声は、普段静まりかえっている西の宮にはあまりに似つかわしくないものだった。
 切り分けたケーキの皿を抱えて戻ってきたリータが騒ぎに気づき、フラレイと一緒にユニカの背に隠れた。
 剣を床に突き立てた騎士はまったく抵抗できないユニカたちを嘲笑いながら、部下が作業を終えるまでそこを退かなかった。

 それから四半刻ほど部屋を荒らし回った兵士達は、唐突に引き上げていった。



 藍色の絨毯の上に無数の白い羽が散っている。
 リータとフラレイは呆然と部屋の中を見渡しているだけだったが、ユニカは無言で寝室、そしてその奥の衣装部屋を確かめに行った。

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