矛先(6)
身をすくめるだけの侍女に代わり、ユニカは自分で抗議するため立ち上がる。
しかし、口を開きかけたその時、ずかずかと彼女らに歩み寄ってきた騎士が剣を抜いた。
「外へ出ろ、天槍の娘」
ユニカの鼻先に切っ先を突きつけた騎士は傲然と笑いながら言った。
「なぜですか」
「中を検める。外へ出ろ」
「検める? どういう理由で――」
騎士は無言で剣を操り、ユニカの喉に切っ先を押しつけてきた。脅しのつもりだろう。
ユニカは一瞬身体を強張らせたが、そうとは悟られないように悠然と微笑んで見せた。そして騎士を睨みつけたまま、ためらいなく一歩を踏み出した。刃の先がユニカの皮膚に埋まり、ぷつりと血の玉が浮き出てきても構わない。
ユニカが恐怖すると期待していた騎士がわずかに怯んだのを見逃すことなく、剣を右手で掴む。
「私は、国王陛下のお許しを得てここに住んでいるわ。あなた方はどなたの許しを得てこの宮へ入っていらしたの?」
騎士の剣を伝ってユニカの血が流れていく。それを見たフラレイが短く悲鳴を上げた。
ユニカはさらに力を込め、握った剣を正面から逸らした。決して痛みを悟らせないようにゆったりと笑いながら。
「魔女め」
舌打ちした騎士はユニカの手を振り払い、彼女のすぐ後ろでおろおろしながら立っていたフラレイに手を伸ばした。そして侍女の腕を背中へ捻り上げ、彼女の頬にユニカの血で濡れた剣の腹を宛がう。
「出ろ、天槍の娘。貴様の我を通して侍女の顔を傷物にするのも寝覚めが悪いだろう? それとも、魔女に哀れみの心はないか?」
ユニカは右手の傷がうずくのを感じながら絶句した。真っ青になったフラレイと若い騎士を見比べる。
彼が魔女≠セと思っているユニカに剣を突きつけるならまだしも、なぜ何の罪もないフラレイにこんな真似をするのだろう。騎士のすることとは思えない狼藉だった。
呆然とするユニカをせせら笑い、騎士は声も出せずに震えているフラレイの肌に刃を立ててみせる。そのまま少しでも剣を滑らせれば、彼女の白い頬に血が浮き出てくる。
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