矛先(4)
「真珠はいらないわ」
「では、お返しいたしますね」
送り返した品物がどうなっているかも知らない。これとて王家の財産で用意しているのだろうから、捨てるわけでもないだろう。
それにしても、過度な贅沢をよしとしない王がユニカに贈ってくるものの豪華さを知れば、廷臣たちは驚くに違いない。
「ユニカ様、お聞きしてもいいですか?」
「なに?」
「今、ユニカ様がお読みになっている本って、王太子殿下からいただいたものなんですよね?」
真珠のイヤリングを指先にぶらさげて眺めていたユニカは息を呑んだ。睨んだつもりではなかったが、凝視された相手は一瞬身体を強張らせる。しかしユニカのその反応を肯定ととったのか、フラレイはすぐにぱっと瞳を輝かせた。
「もしかして、お読みになっているのは『ロマンティック・サファイア』ですか?」
「――な、」
なんで知っているのだろう! あんな恥ずかしい恋愛小説、読んでいるのを知られたくなくて今日まで慎重に枕の下や机の抽斗(ひきだし)に隠してきたのに。
ユニカはイヤリングを握りしめて真っ赤になり、何度か唇を空回りさせてからようやく問い返した。
「どうして知っているの」
「先日、ユニカ様が殿下と公子様のご招待で温室へ行かれた時、テリエナが殿下とユニカ様の会話を聞いて、そうじゃないかって言っていたんです」
しまったとは思いながら、声も出ない。本のことを話題にしたのは迂闊だった。
侍女のお薦め、同じ年頃の娘に勧める……それだけの条件で題名がばれるとは考えもしなかった。しかし、巷に出回っている本といってもやはり高級品であるから、星の数ほどあるというわけではない。加えて、その中でも特に話題の本。テリエナがぴんときてもおかしくなかった。
盗み聞いたわけでも、こっそりユニカの本を見たわけでもないので、彼女らのことを叱るのは筋違いだ。
どうすることも出来ずにユニカは赤くなって肩を震わせた。
「それで、どうですか? 面白くありませんか?」
「まだ読んでいる途中よ」
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