天槍のユニカ



矛先(3)

 公子が帰国してから三日が経つ。王城内の雰囲気が落ち着きを取り戻したかどうかを、ユニカは知らないまま過ごしていた。
 あれ以来、西の宮から出ず、彼女は寝台の上で毛布を被りディルクに貰った小説を苦戦しながら読んでいた。
 これほど読むのに時間がかかった本は初めてである。
 ヒロインと婿殿が結ばれてからは二人の甘い雰囲気が恥ずかしくてたまらず、何度読むのを断念しようと思ったか知れない。しかし、一途にヒロインを想い続けてきた幼馴染みの青年に裏切りの兆しがあり、その辺が気になってなんとか頁を進めるユニカである。
 幼馴染みの青年が想い人に剣を突き付けるシーンをはらはらしながら読みつつ、ユニカは喉の渇きを覚えて顔を上げた。小説はいいところだが、緊張しながら読んでいるのもあって喉がカラカラだ。お茶を一杯飲んでから続きに挑もう。
 毛布を脱いで視界が開けると、枕元のテーブルに飾られたハーブのブーケが目に入った。指でつついて揺らすとラベンダーの優しい香りが広がる。続く雪空で鬱ぎそうになる気分をほっと解してくれた。
 本もブーケも関わるつもりのなかった人物から貰った贈りものだが、悪くはない。
 ユニカは朝食ぶりに寝室から出てきた。テリエナは非番、エリュゼはどこかへ出ているようで、いるのはリータとフラレイの二人だった。
「お茶を淹れて」
「はい。先ほど、陛下からのケーキが届きましたが……」
「あなたたちも食べるといいわ」
「はいっ」
 卵と砂糖をたっぷり使った焼き菓子の匂いが部屋に充満していた。その大皿を持っていたリータが、フラレイとユニカの遣り取りを聞いて嬉しそうに出て行く。甘いものとお喋りに目がない彼女達は、ユニカが惜しみなくお菓子を分けてくれるところだけは大好きだ。
 寝椅子(カウチ)に座ったユニカは、テーブルの上に並べられていたイヤリングとネックレスを手に取った。小さな真珠に絹糸を通し、レースのように編んだ豪華な意匠だ。また、お菓子と一緒に王から贈られてきたらしい。
 王からの贈りものはお菓子から化粧品、衣服や宝飾に及んだ。すべてを受け取っているわけではなく、いらないものは送り返していた。だからこうして侍女たちと一緒に整理する必要がある。どうしてこんなものが届くのかは、もはや考えようとも思わない。

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