問いかけ(4)
「わたくしが集めた押し花です。木苺高地の別荘へ行った時に見つけたお花を持ってきました。ユニカ様がゼートレーネでご覧になった、名前の分からないお花もこの中にあるのではないかと思って」
ああ、そういえば、ヘルミーネの茶会では花の話をしていた気がする。ゼートレーネの湖城の庭に植えられていた山野の小さな花々……名前は分からないがとても可愛らしかった、とユニカが言った時、ジゼラがえらく食いさがっていくつも花の名前を挙げてくれた、ような。現物がないので答え合わせはできなかったが、ジゼラが「調べてみる」と言っていた。
「この中にありますか? 小さな紫のお花だと、このページから。白いお花だとこのあたりに並べてあります」
ジゼラから帳面を受け取り、膝の上で開く。ずっしりと重いそれには、形が崩れないように丁寧に貼った押し花と、その花の名前や見つけた場所、日付が書いてあった。「見つけた場所、納屋の西側の日陰」とかいう記述もあってびっくりする。ジゼラがそんな場所を覗きに行ったのだろうか、自分で?
「とてもたくさんありますね。詳しくて、図鑑みたい」
ふと思い出したのは、養父アヒムがこういう図鑑を広げていたな、ということだった。養父の場合はもっぱら薬草の本だった。彼は自分でも薬草の絵を描いてその特徴や効用、薬としての使い方をまとめていた。あれはビーレ領邦の施療院に知識を広めるために作っていたのだから、れっきとした仕事だった。
なんだか懐かしい気分になり、ゼートレーネに咲いていた花を探しながらもジゼラの押し花集をゆっくりめくって眺めていく。
それにしても。
この姫君は、これを見せるためにわざわざユニカに会いに来たようだ。
はたして、なぜ?
ジゼラがユニカと仲良くしたいと思っている、という考えは、一切浮かんでこなかった。
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