秘密の報復(22)
もう一回、と身を乗り出してくるディルクの胸を押し返せば、彼はふざけた様子で笑った。
沈んだ空気を解いてくれたことに感謝しながら、ユニカはわざとむっとした顔を作って毛布の中に潜っていった。
エリュゼの謹慎は明後日までだという。明明後日には登城するよう改めて使いを寄越す、ともディルクは言っていた。本当に、事実を作るための処分なのだ。
ほっとしたものの、あのまじめなエリュゼのことだからユニカを危険にさらしてひどく落ち込んでいるはずだ。戻ってきてくれたらしっかり詫びねば。
それまでにはもう少し顔色をよくしておいた方がいい。
侍女達に身体を拭き清めてもらってから横になり、四肢を捕らえるような怠さ、熱っぽさを感じつつユニカは深く目をつむった。
ディルクが言うとおり、この身体ならすぐに快復する。
だが、問題はそれだけで済まないはずだ。
あんなに大勢の前でユニカは倒れた。ラビニエがユニカのお茶に何かを入れたのもみんなが見ている。
自分をこんなめに遭わせた相手のことを案じるのは妙だったが、彼女達はどうなるのだろうか。直接関与していないエリュゼでさえ処分されたのだから、ディルクやエルツェ公爵がラビニエ達を許すはずがいないだろう。
ディルクがそのことに触れなかったので、あえて聞くことは恐くてできなかった。
そもそも、彼女らがユニカをやっかんで意地悪をしようと思ったのは、ユニカに王太子のそばで過ごす資格がないからだ。
何度考えてもそこに行きついてしまう。
(私がここにいなければ、こんなことには――)
もう、潮時ではないだろうか。ディルクとエルツェ家を結ぶ役目を果たす以上の問題を起こしていては意味がないのだから。
憂鬱な気分で輾転としていると、夏の太陽はあっという間に昇っていった。それは茶会の前よりずいぶん大人しい光になった気がする。
もうすぐ夏が終わる。ゼートレーネで始まったユニカの夏も、一緒に終わるのかも知れない。
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