天槍のユニカ



秘密の報復(21)

 上掛けをきゅっと握りしめていた手に、ディルクの手が重なってくる。
「エリュゼの役目は、エルツェ公爵夫人の名代として君を教育し守ることだ。エルツェ公爵夫人の顔を立てたいのはもちろんだし、ほかならぬユニカのためになると思って、俺は侍官でもないエリュゼがこの宮に出入りする許可を与えていた。だけど今回、エリュゼは自分の仕事をしなかったことになる。役目を果たせない者を宮には入れられない」
 ユニカが反駁しようと開きかけた唇に、ディルクはすっと指を立てて塞いだ。
「誰が見ても罰だと分かる処分をエリュゼに与えないわけにはいかないんだ。ユニカが傷つけられても、そうなると分かって見過ごしても、咎められないという前例ができてしまうから」
 責められたわけではないと思う。ディルクは説明してくれただけだ。しかし、その内容は厳しかった。どう考えたって原因はユニカにあるのだから。
 それでも目を背けたって仕方がない。エリュゼはユニカの選択を尊重してくれただけで、仕事を怠るつもりではなかったのだ。そのことはディルクに分かって貰わねばならなかった。
「お茶会に行くと決めたのは私だわ。……ディルクに相談しないと決めたのも」
 ディルクは「言ってほしい」と、ユニカに向けて手を差し出していたのに、見ないふりをしたのもユニカだ。
 王太子の立場や権威に甘えてはだめだと思ってのことだったが、それでこんな騒ぎを起こしていたのでは、あの選択も意味を失う。きっと、ディルクだって不快だっただろう。
 深くうなだれていると、ディルクが額をすり寄せてきた。親しげな仕草に安堵しそうになるのが、かえって後ろめたさを掻きたてる。
「ユニカにその自覚があるなら、それでいい。元気になったら、一人で抱え込んだことをうんと反省して。俺も、ユニカの様子がおかしいと分かっていながら話を聞かなかったのを反省する。すまなかった」
 額にぬくもりを残し、鼻先が触れ、やがて唇が触れ合う。また涙が溢れそうになるのを堪えながら、ユニカは目を閉じる。その時、唇の表面をちろりと舐められるのを感じた。
「葡萄の味がする」
「……当たり前よ」

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