天槍のユニカ



秘密の報復(19)

 ぼろ、と、目の縁に溜まっていた涙が転がり落ちる。すると、待ち構えていたようにディルクの手が伸びて目許をぬぐっていく。
 労るような手つきが心地よく、ユニカはさらに溢れてきた涙を追い出すように瞬いた。
「泣くのが上手になったな」
「え……?」
「少し前まで、君は辛いことがあるとどこかに閉じこもって、顔も見せてくれなかった」
 ディルクの指はユニカの涙を一粒ずつ拾うように頬を撫でてくれる。まるでそれが宝物だとでもいうように。
 彼の手の温かさに促され、ユニカはうつむいて嗚咽を漏らしていた。しゃくりあげるたびに息が喉につかえて苦しいが、やがてディルクが抱きしめてくれると、泣くほどに胸の中の痛みが解けて緩んでいった。 
 マクダやクリスタが、茶会をほとんど知らないユニカの準備を手伝ってくれたのに、レオノーレやティアナが味方になってくれたのに、決して少なくはない令嬢達に挨拶して貰えたのに。
 上手くいかなかった。受け入れて貰えなかった。
 悲しさと悔しさがごちゃ混ぜになって湧きあがってくるが、そのほとんどは涙と一緒に外へ追い出せた気がした。

 

 ユニカが落ち着くと、ディルクはすぐさま食事を手配してくれた。とはいえ胃がむかついていて食欲はまったくない。
 そう言うと彼は果物を用意させた。王城の果樹園で採れたプラムと、昨日王城へ献上されたという葡萄。贅沢なことに、どちらも王太子殿下が自ら皮と種を除いて、プラムは一口大に切ってくれる。
 そして、果汁で手が濡れるのもいとわず口まで運んでくれた。果物を皿から自分の口まで運べないほど弱っているわけではない。しかし、ディルクの手から葡萄を一つ食べてあげると彼が心底嬉しそうに微笑んだので、ユニカは「自分で食べる」と言いだせなかった。
「それだけうまそうに食べてくれるなら、もうしばらく休んでいれば元気になるかな」
 また一粒、ディルクがちまちまと皮を剥きナイフの先で種を取り出した葡萄を貰う。びっくりするほど甘い葡萄だった。みずみずしくて喉も潤う。

- 1312 -


[しおりをはさむ]