天槍のユニカ



秘密の報復(18)

「ユニカ、よかった」
 ちょうど閲兵式を終えて宮へ戻ったところらしい。軍服姿のディルクは寝台へよじ登って口づけてくる。横になっていたユニカには逃げようもなく、カーテンが順番に開けられ明るくなっていく中で、それを甘受するしかなかった。
 頬や髪を好きなだけなでさすったディルクが落ち着くと、ユニカはようやく身体を起こせた。
「ヘルツォーク女子爵に登城するよう使いを出した。午前のうちには診察に来てくれると思うよ。具合は、まだよくはなさそうだな」
「……怠いわ」
「熱もある。昨日よりはさがっているけど」
「昨日?」
「茶会があったのは一昨日。ユニカの容態が落ち着くのを一晩待って、昨日ここへ連れてきたんだ。覚えていないか」
 ユニカは、ディルクが肩にかけてくれたショールを胸で掻きよせながら頷いた。
 丸二晩意識をなくすほどのものを、自分は飲まされたのだ。
 ちょっと苦いものではなく、『天槍の娘』でなければ命を落としていたかもしれないものを。それとも、『天槍の娘』なら常人が死にかねないものを飲ませても悪ふざけで済むと思ったのだろうか。
 どちらにしろ、胸が裂けるようだった。ユニカが死んでもいいと思ったにしろ、残酷な悪ふざけだったにしろ、あのテーブルにいたラビニエとその取り巻きたちの目的は、大勢の客の前でユニカを排除することだった。
「レオやクリスタさんは、平気?」
「君以外に毒を飲まされた客はいない。大丈夫」
「やっぱり、毒だったの」
 ショールを掻きよせた手をぎゅっと握る。
 そんなことには慣れているはずだった。むしろ、ユニカが王城に来てからずっとそうだった。王妃は親切にしてくれたが、ユニカの周りに置かれる使用人達の目はいつでも異物を見る目だったし、毒をお茶に盛られたり裁縫針に塗られたり、剣で襲われたことすら、ついこのあいだにあったこと。
 今だって、ディルクのそばにいることを誰もが認めてくれているとは思っていなかった。
 それなのに、胸が痛い。

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