秘密の報復(17)
鈍い金属音を聞きつけた兵の一人がコルネリアとルウェルのそばへ駆け寄り、血のついたナイフを拾って目を瞠る。
「殿下、どちらにおけがを!?」
「大したけがじゃない、かすり傷だ」
ディルクが自ら傷つけた左手を兵に見せると、そうとは知らない相手は慌てふためいて部屋を飛び出していった。
「ヘルツォーク女子爵をお呼びして参ります!」
その言葉は廊下から聞こえてくる。
「殿下、どうぞこちらへ、まずは止血を……」
兵に促されて部屋を出る間際、ディルクはコルネリアを冷たく顧みた。
「あんたの婚約者はさ、気の毒だなーとは思うけど、死んだわけじゃなかったじゃん。だったら一緒にいてやればよかったのに。けど残念。王族にけがをさせた人間は死刑になるんだぜ」
そして、ルウェルがそう囁き、震えていたコルネリアがその場にずるずると崩れ落ちるのを横目に、その場を去った。
* * *
ユニカが目を覚ましたのは、ちょうど朝だった。
気分が悪い夢を見ていたような気がする。だが、起き上がってぼんやりしていると本当に気分が悪くなってきたので、夢ではなかったのだな、と思った。
お茶会はどうなったのだろう。結局自分は何を飲んでしまったのやら。
多分、大騒ぎになったはずだ。レオノーレやクリスタ、ティアナは大丈夫だっただろうか……。
仰向けに戻ってぼーっとしているうちに、カーテンを開けにきた侍女のフラレイがユニカの目覚めに気づき、忙しなく体調を尋ねてきて、ユニカの応えをちゃんと聞いたか怪しい体でいずこかへ去る。カーテンを開け忘れていったので部屋は暗いままだった。
再びうとうとしてしまうくらいには時間が過ぎた頃、フラレイはディルクを連れて戻ってきた。
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