天槍のユニカ



秘密の報復(15)

 それでも、ディルクは確かめに行くことにした。



 ルウェルを伴い、近衛兵が厳重に封鎖した部屋に入ると、コルネリアが窓辺に佇んでいた。もちろん外にも兵が配置されていて、庭から逃れることも不可能だ。ただ、彼女はそんなことを企んでいるわけではなさそうだった。
 ユニカが毒を飲んだ時に同じテーブルにいた四人は、首謀者とみなし、城に連行してある。牢に入れていないのは、罪が確定していない彼女らの家への配慮だ。
 窓の外を茫洋と眺めていたコルネリアは、肩越しに振り返ってディルクの姿を認めるや、にたりと嗤った。
「ご寵姫のご様子はいかがです? 王太子殿下」
「無事とはいかないが、お前の命はもうしばらく繋がる。処置してくれたティアナやヘルツォーク女子爵に感謝することだな。だが、仕返しする相手が違うのではないか。コルネリア・シャプレ」
「なんのことでしょう」
「ロットナーを更迭したのは私だ。ユニカは関係ない」
 それを聞いたコルネリアは明らかに表情を歪めた。燃え上がるような憎悪をその目に滲ませ、ディルクに向き直った。
 コルネリアが両手で隠していたものを露わにしたのを見て、ディルクは目を細めた。
 小さなナイフだった。茶会のテーブルからくすねてきていたのか。
 それを見たルウェルが前へ出ようとしたのを、ディルクは制止した。
 行軍訓練でまともに兵を動かせなかった王太子領軍の連隊長二名を、ディルクは降格した上で更迭した。その片方がシャプレ伯爵の長女の婚約者であると資料の片隅で読んだ。
 ディルクの記憶に引っ掛かっていたのはそれだったのだ。一緒に更迭した将軍の後任人事に苦労していたので、替えが効いた連隊長達のことはすぐさま意識の隅に追いやってしまっていた。
 どうりで思い出せないはずだった。そんな、取るに足らない情報。
 まさか、その関係者が仕返しのために近くまでやって来るとは思わなかった。
「ロットナーには私の手足として働く能力はなかった。そればかりか王太子領の兵を腐らせることに加担していた。更迭で済ませてやったのはむしろ私の温情だ」

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