天槍のユニカ



秘密の報復(13)

 エリュゼも同じ考えにいたったのか、跪いたまま青ざめている。
 ユニカは茶会へ行きたくないという顔をしていたのに、なぜ行くことにしたのか、もっと考えてみればよかった。エリュゼやレオノーレを問い詰めてみればよかった。
 だが、今になって遅すぎる報告をしてきたエリュゼが、コルネリアの言動をディルクに知らせなかった理由も聞いておく必要があった。
「卿が報告しなかったのはなぜだ」
「待って、伯爵を叱らないで。伯爵はディルクに相談しようって言ったのをあたしが止めたのよ」
 思いも掛けない横槍にディルクは目を瞠る。
「止めただと? どうして。ユニカが脅されるのを目の前で見ておきながらか」
 ディルクとエリュゼの間に身体ごと割り込んだレオノーレだったが、ディルクの目にほの暗い火が点くのを感じたらしく、思わず一歩後退った。
「子どもが企んでる嫌がらせくらいなら大したことじゃないと思ったの。ディルクが口を出すほうが角が立つと思ったし、それに、ユニカだっていずれこういう場には慣れていかなくちゃいけないし」
「俺が口出しするかどうかも、ユニカがどうやって女達の付き合いに慣れていくかも、決めるのはお前じゃない」
 レオノーレが開いた距離を埋めてなお近づき、目と鼻の先で妹を冷たく睨み据える。
「お前やプラネルト女伯爵が内侍でもないのに宮へ出入りすることを許しているのは、お前達が俺の手の届かないところでユニカを守ってくれているからだ。それができないのなら、いて貰う必要はない」
 う、と息を呑むレオノーレを押しのけ、ディルクは跪いたままのエリュゼを見下ろした。
「プラネルト女伯爵、卿には今から五日間の登城を禁じる。今すぐ出ていけ」
「――はい」
「ちょ、ちょっと待ってよ、伯爵はちゃんとディルクに相談しようって」
「プラネルト女伯爵の判断を歪めた責任は感じているんだな。結構だ。ならば公女殿、今日から十日は、内郭へ出入りすることをご遠慮願おう」
「十日!? なんであたしは十日!?」
 叫んだレオノーレをじろりと睨めば、彼女はようやく気づいたようだ。これは単なるディルクからの叱責ではなく、王太子から下された処罰だということに。ディルクが公的な立場で言い渡したことなら、ウゼロの公女も、プラネルト女伯爵も従わざるを得ない。

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