天槍のユニカ



秘密の報復(11)

 申し出を受けてくれたエリーアスは、教会の情報網を掌握できるより強力な権限を手にするため、導師への昇格試験に臨んでくれた。
 彼がディルクとユニカの関係に意見を言ったことはない。ユニカの安全のためには、ディルクのそばにいるのがよいと判断したのだろう。ユニカがそれを拒んでいないことももちろん大きい。
 ただ、エリーアスの沈黙がかえって恐ろしかったので、ディルクの方からエリーアスに挨拶を述べたし、ユニカの安全に力を尽くすと約束もした。
 その時は「当たり前のことをくどくど言わずに実績で示せ」と冷徹にあしらわれたが、ディルクはそれを裏切ってしまった。
「エリーアス導師にご心配をおかけしたのは事実です。ユニカをそばに迎えるからには必ず守ると申し出たのも私ですから……導師がお怒りになるのは当然です」
 ナタリエは苦笑し、「それでも改めて叱っておく」と言って、静かに寝台を指し示した。
 寝台のそばには、ディルクと同じように悄然としたレオノーレとエリュゼ、そしてティアナが佇んでいた。エリュゼは治療も手伝ったのか、きちんとまとめられていた髪がいくらもほつれていた。
「大丈夫? ディルク」
 エリーアスに胸ぐらを掴まれたことを心配してくれているのか、張り詰めた顔をしていることを心配してくれているのか知らないが、自分自身もしおれた花のような顔でレオノーレがそっと寄り添ってくる。
 妹の問いに黙って頷き返し、ディルクは天蓋の影にあるユニカの顔を覗きこんだ。
 土気色の頬をそっと指で撫でる。かすかに体温を感じてほっとするものの、生気も力も抜けて目をつむっているユニカの様子を見ると、腹の底に湧いてくる不安と怒りが混じり合って、泥のように黒くディルクの思考を埋め尽くしていく。
「何があったんだ。お前が隣にいたと聞いているが」
 つい責めるような口調になってしまうと、レオノーレはわずかにたじろいだ。
「ラビニエが、珍しい砂糖だって言って、あたし達のカップにそれぞれ違うものを入れたのよ。だからユニカのカップにだけ毒が入れられたの。なんで飲んじゃったのかは分からないんだけど……気づかなかったはずはないと思うわ。ものすごい味だったし」
「目の前で、堂々と毒を入れられたわけか」
「ごめんなさい。本当に油断してたとしか言えない。思えばラビニエが砂糖≠お茶に入れて混ぜるスプーンが陶器だったわ。殺鼠剤に反応させないためだったのかも」

- 1304 -


[しおりをはさむ]