秘密の報復(4)
そうなれば娘の罪は父親に及ぶ。
ディルクの貴重な駒をこんなことで損なわねばならないとは。
伯爵に同情するのではなく、そう考えてクリスティアンは落胆した。
* * *
レオノーレの侍女、カーリンが王太子の元へたどり着いたのは、彼の伝言を携えたプラネルト女伯爵が城を降りてからしばらくしてのことだった。
若いながらレオノーレの破天荒さについていける胆力があるこの女は、四、五年前からレオノーレの傍付きを務めていた。ディルクにとっても顔なじみの侍女だ。
そのカーリンが強張った表情で皆まで言い終える前に、ディルクは腰を浮かせていた。
「なんだと」
コルネリアが誰≠ナあるか気づいた時に覚えた嫌な予感。それが現実になった。ディルクはそう直感した。それも考え得る最悪の事態が起こったと知り、束の間呆然とする。
エリュゼがユニカを連れ帰る――それで済むと思ったのに。
「プラネルト女伯爵が来なかったか。ユニカを迎えに行かせた」
「わたくしが屋敷を発つ時にはいらっしゃいませんでした。入れ違いになってしまったのでしょうか」
あと一時間、いや、四半刻早く気づいていれば。
カーリンが差し出したティアナからの手紙を奪うように掴んで広げる。
そして、そこに書かれたティアナが知る限りの経緯とユニカの容態を読むや、ディルクは机を離れた。
仔細は不明だが、ユニカが倒れるほどの毒を口にしてしまったらしい。吐かせはしたがすでに意識が混濁している様子で、ヘルツォーク女子爵を呼びジンケヴィッツ邸でできる治療を行う――と書かれていた。
どうやってユニカを昏倒させるほどの毒を飲ませたのだろう。きっと常人を害するような量ではないはずだ。もしくはよほど強力な毒を使ったのか。
そして、ユニカは強靱な生命力の持ち主だが、それだけだ。毒も剣も彼女に通用する。今まではその毒が、傷が、彼女の力を上回らなかっただけなのだ。
- 1297 -
[しおりをはさむ]