天槍のユニカ



盤上の踊り(17)

 敵が必殺の一手を繰り出してきた時こそ、最大の好機だ。

 

 議場に溢れた怒号。ユニカはどうしていいか分からなかった。
 押し入ってきた兵士は貴族たちに興味がないようで、外へ逃げる彼らを尻目に議長や王が座る――いや、ユニカが座る壇上の席を目指して殺到した。それを近衛騎士が迎え撃っている。
 わけが分からない。どうして王城を守る兵士同士が戦っているのだろう。
「魔女を殺せ!」
 そんな叫び声がそこここから聞こえた。ああ、なるほど。騎士たちに立ち向かっている彼らは私を殺そうとしているのか。冷静にそう思う一方、剣を抜いた兵士と騎士全員がこちらへ向かってくるような気がして、一気に血の気が引いた。
 それはユニカの悪い想像だったが、現実にはいくつもの弩がこちらを狙っているのに気づき、彼女は椅子を蹴倒して卓(つくえ)の下に隠れた。びゅんびゅんと風を切る音が頭上を通り過ぎていく。
 どうしよう。逃げなくては。
 そう思うが、本能的な恐怖にはユニカも逆らえない。屈み込んだが最後、脚が震えて上手く立ち上がれなくなってしまった。
「ユニカ! こっちだ、来い!」
 呼ばれて、ユニカは何とか卓の上に顔を出した。また矢が飛んできて、その鏃はティアラを捕らえた。高い音とともに青金の冠が弾き飛ばされる。
 エリーアスは西扉の前へ続く階段の端で手を伸ばしていたが、それを見た彼はいても立ってもいられずユニカの席まで駆け上ろうとした。しかしユニカに向けた弩の連射が止まないので、従者の少年僧がエリーアスに飛びついてそれを阻む。
 エリーアスは従者を引きはがそうと怒鳴っているが、ユニカはほっとした。矢がエリーアスに中っては困る。
 けれどいよいよ行き場がない。エリーアスのそばへ行ったら彼が危険だ。
 不意に、卓の向こうにぬっと兵士の顔が現れた。ユニカに逃げる隙も与えず、卓上によじ登った兵士はユニカの黒髪を無造作に掴んだ。そしてものすごい力で彼女の身体を引っ張り上げようとする。

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