盤上の踊り(18)
「っあぅ」
痛みに逆らえず立ち上がる。肩越しに髪を掴む兵士の出で立ちを確かめれば、彼は近衛の制服を着ていた。
この男は味方だろうか、敵だろうか。それすら混乱で分からない。
兵士はユニカの髪を掴んだまま、勢いに任せて彼女の頭を卓上に叩き付けた。あまりの痛さに視界で火花が散った。そんなユニカの肩を踏みつけ、兵士は頭上に大きく剣を振り上げる。
議場の天窓から光が差し込んでいた。雲が切れたのだ。
ユニカは首を捻って兵士を見上げる。逆光で相手の顔が見えない。黒い影でしかない剣の輪郭もぼやけている。まだ目の前がチカチカする。頭を打ったせいなのか、それとも。
そしてその影が、無言で振り下ろされ――
刃がユニカのうなじに達する直前、鞭を打つような音と同時に青白い光が弾けた。
「ぎゃああっ!」
青い電流をまとった剣を放り投げ、兵士が卓上を転がり落ちていった。その光景に混乱を極めていた議場は水を打ったように静まりかえった。
落ちていった兵士は議長席の卓上でびくびくと痙攣していた。鍔迫り合いをしたまま振り返る兵士や騎士は、ユニカの『天槍』を喰らった彼を呆然と見ている。
「殺せ!!」
その沈黙を打ち破って、チーゼル卿が叫んだ。
「殺せ! その魔女の首を落とすのだ!!」
わぁっと、再び怒号が湧き上がった。突っ伏したまま咳き込んでいるユニカのもとへ騎士を踏み倒し兵士が卓上を登ってくる。
王を卓の下に無理矢理押し込んだディルクは彼らと同じように卓上へ飛び乗り、ユニカに掴みかかろうとしていた兵士を蹴り落とした。
「立つんだ、こちらへ……!」
ひとしきり兵士を追い払うと、ディルクは苦悶しているユニカを乱暴に抱え起こした。兵士に踏まれたのが塞がりかけていた傷口だったようで、ディルクに腕を引っ張られるとユニカは短く悲鳴をあげる。
ディルクの胸にしがみつきながらようやく立ち上がったユニカは、弩を抱えた兵士が二人、彼らのすぐそばまでよじ登ってきているのに気がついた。
けれど咄嗟に声を上げることを思いつかず、ディルクの腕をぎゅっと掴むことしか出来ない。
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