審問・青金冠(20)
「今度はなんです?」
「もう一つ、王家の証だ」
箱を開けると、盾の形をしたサファイアに、金で有翼獅子紋が象嵌された指輪が入っていた。ディルクの左手にあるのと同じものだが、箱の中にある指輪は少し古い。
「これは王妃様にお借りしようと思う。手を出して」
ユニカが手を差し出さないので、ディルクはドレスを握りしめていた彼女の手を取り上げた。透けるような薄絹の手套に包まれた左手の中指に、もったいぶるようにゆっくりと指輪を差し込んでいく。
「少しゆるいか?」
指輪が収まった左手を見つめながら、ユニカは小さく首を振った。
「王妃様の遺してくださった盾が必ず君を守る。私も、こんなに下らない茶番劇を開いて見せた者達を許さない。怖がらずに堂々としておいで」
ユニカが震えそうになっているのを見抜いた囁きが悔しかった。けれど、力強く優しい声は、間違いなくユニカが今欲しかったものだ。
彼がユニカの手を放すと、今度はエリュゼがユニカの前に跪いて、両手をそっと包み込んでくる。
彼女は何も言わなかった。うつむくユニカの顔を静かに見上げていただけで。きゅっと手に力を込めたかと思うと、重ねた二人の手に静かに額を寄せて――ユニカから離れた。
立ち向かう、なんていう表現は大袈裟かも知れない。しかし貴族達と相対しなければ、ユニカは欲しいものを手に入れられないようだ。
二人に手を握られて、ユニカはやっとこの部屋を出て行く決心がついた。
――この世界にいるのは、ユニカの敵ばかりではない。多分、ディルクが言うとおりだ。
「議場で会おう」
ディルクに頷き返したユニカは彼らの背中を見送り、遅れて静かに立ち上がった。
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