天槍のユニカ



審問・青金冠(19)

 心の中で呪文のように問いと回答を繰り返しているうちに、部屋の扉を叩く音が聞こえた。返事はしなかったが誰か入ってくる。ユニカは今一度目許をぬぐって身体を起こした。
 ここはドンジョンの一画で、東の宮に借りていた部屋でも、西の宮の自分の部屋でもない。
 用意されていたドレスに着替えたユニカは、侍女たちを追い出し一人になっていた。そこへやって来たのはエリュゼを伴ったディルクだった。
「ティアラを着けていないじゃないか」
 ディルクは箱に収められたまま鏡の前に置かれているティアラを見て首を傾げた。金の土台に、薔薇のカットを施した大粒のサファイアが燦然と輝く、あのティアラだ。
「……こんなに派手なものでなくても」
「だめだよ。今の君はまがりなりにも『王家の娘』だ。正装時には青金≠身につけなくてはいけない。プラネルト女伯爵、着けてやってくれ」
「はい」
 濃緑のサッシュを着けたエリュゼは鏡の前にあったティアラを取り上げると、ユニカの頭に作られていたシニョンに添えてピンを挿していく。いつもユニカの髪を手入れしていただけあって手慣れたものだ。
 深い青は王家の色。石で現すならばサファイア。
 ウゼロ公国で産出される良質な金、特にウゼロ・ゴルトと呼ばれる黄金とサファイアの組み合わせは、王家にしか許されない宝飾品である。
 その青金のティアラが自分の髪に載っている。自分が王族だというのは冗談ではないらしいなと、ユニカは嘆息した。
 ユニカが着ているドレスにも仕掛けがあった。これはクレスツェンツのドレスである。紺地に、胸元には金糸と銀糸で薔薇が刺繍してあり、腰回りから裾に向かって星が降り注ぐように無数の真珠が散りばめられている。
 クレスツェンツが王家に輿入れした際、婚礼の儀式のあとで初めて公の場へ現れた時に着ていたドレスなので、貴族達の間での認知度も高いとか。それを形見としてユニカが着ている、そういう演出だ。
「似合うよ。綺麗だ」
 鏡の中では王太子が目を細めて笑っていた。彼がドレスの裾と同じほど長いヴェールに触ろうとしていたので、それを拒否するためにもユニカは勢いよく振り返った。
 触れさせてもらえなかったことを残念そうにしながらも、ディルクは最後の仕上げとなる小道具が収まった箱を化粧台の上に置く。

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