天槍のユニカ



盤上の踊り(1)

第10話 盤上の踊り


 
 シヴィロ王国の西に接するウゼロ公国。その国は版図の全域から金をはじめとする様々な鉱物を産出する鉱山の国である。
 その兄ににして主君であるシヴィロ王国は、旧くからウゼロ公国で産出される鉱物やその加工品を、陸路、水路を通じて近隣諸国に供給してきた。
 シヴィロ王国内でもそれらの奢侈品は多く流通している。サファイアは王家のものだが、黄金は貴族から庶民にいたるまでが好む。不変の黄金は神々の力に通じるものでもあるため、生まれ月を守護する女神の刻印がされた小さな黄金のお守りを、我が子に贈らない親は少ないだろう。
 王城の装飾にもいたるところに金の細工が用いられていた。ユニカが見上げている議場の入り口の大きな扉にも。
 アーチ型の扉のてっぺんには、正義と導きの神である天の主神の象徴、黄金の天秤のレリーフがはまっていた。
 彫刻の天秤は動かず、皿は平衡を保っている。国が常にこのような状態であるよう、王と臣下がこの部屋で話し合うのだ。そして時には、天秤を傾けとようとする要らない重しの排除を決める。
「よう」
 入場をしばし待つように言われ、扉の前で待機していたユニカに声をかける者があった。エリーアスだ。
 彼は教会の使者として正装していた。着ている黒い法衣は普段の質素なものと違い、襟から肩、袖にかけて、ふんだんに金糸の刺繍が施されていた。刺繍は教会を象徴する百合の花の意匠である。伝師の身分を示す濃紫に金の縁取りのサッシュにも、地と同じ紫色で百合の紋様が描いてあった。
「派手だろ」
 ユニカがまじまじと見つめてくるので、自分の格好が珍しいのだと思い、エリーアスは肩から掛けているサッシュをひらひらと揺らした。
「エリーもこの審問会に呼ばれているの?」
「お前が本当に王家に在籍しているのかどうか、証書を見せろという貴族がいるらしくてな。好きなだけ確かめろってことで教会の保管分を持ってきたんだよ」

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