秘密の報復(1)
第6話 秘密の報復
レオノーレの声でヴィルヘルムが飛び出して行く。そのあとを追い、クリスティアンとフィンも庭園へ駆けつけた。
そして、ティアナにもたれかかるユニカの様子に唖然とする。嫌がらせがあるかもしれないという話はちらりと聞いていたが、これは嫌がらせというには度を超している。
二人はティアナを手伝い、ぐったりしたユニカの身体を支えてやった。手の空いた王太子の元侍女は素早くユニカの口元を拭って清めながら、ユニカを横になれる場所へ運ぶようにと指示してくれた。
「ヘルツォーク子爵がユニカ様の侍医を務めています。連絡を取るべきでしょうか」
クリスティアンがユニカを抱えながら問うと、ティアナは硬い顔で頷いた。
「ぜひ、そうしましょう。女子爵にはすぐにこちらへ向かっていただき、胃を洗う薬を持参していただくのがよいですわ」
「フィン、大学院への道は分かるか」
「はい。しかし、女子爵は施療院にいらっしゃる可能性も……」
ユニカを運ぶクリスティアンは、半歩後ろをついてくる部下を振り返って思わず眉を寄せる。
ユニカの身体は丈夫≠セ。それゆえ女子爵の侍医任命が形式的なものになることに甘んじていたのが、こんなところで仇になるとは。本来なら、護衛のクリスティアンと彼女が常にお互いの居場所を把握して、万が一に備えておかねばならなかった。
フィンが一人で大学院と施療院を回ったのでは、大学院がはずれ≠セった場合にヘルツォーク女子爵を連れてくるまでに時間がかかる。
かといって、ヴィルヘルムはジンケヴィッツ伯爵令嬢の拘束で手がふさがっているし、自分もユニカのそばを離れるわけにはいかない――
そこへ追いついてきたレオノーレがフィンの肩を叩きながら言った。
「手分けしましょ。フィンは大学院に行きなさい。クリスタの侍女を施療院に行かせるわ。それで、あたしの侍女をディルクのところへ行かせる」
「では、わたくしがユニカ様のご様子と必要な薬の類いをまとめたお手紙を書きます。それをお持ちになってください。王太子殿下へは……」
「ティアナが手紙を書いて。ユニカの様子をまとめるなら少しでも詳しく説明できる人のほうがいいわ。そうでしょ、クリス?」
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