天槍のユニカ



秘密の報復(2)

 打倒だと思えるレオノーレの提案に頷き返し、クリスティアンは付け加えた。
「私から、ディルク様へ近衛の一隊を応援に要請すると書き加えていただけますか」
「兵を送って貰ってどうするの? さすがに物騒じゃない?」
「これが誰の企てで、誰が無関係か確認できるまで、ここにいるご令嬢方を一人も解放するわけにはいきません」
「それもそうね。幸いにも屋敷の主人はご在宅らしいし、話はつけやすいんじゃないかしら。なんならあたしを盾に使って」
 レオノーレは様子を伺いに出てきた令嬢達の付き人や護衛を睨めつけて道を空けさせ、彼らの控え室――先ほどまでクリスティアン達がいた――を突っ切り、屋敷内の手近な扉を開けていく。三つ目の部屋で、中に長椅子がありユニカを寝かせられる応接間を見つけた。
 ティアナがカーテンを閉め、レオノーレが横たえられたユニカの衣裳をさっさと緩め始めるので、クリスティアンとフィンは慌てて外へ出た。
「ティアナ様から書状をお預かりしたらすぐに発て。女子爵が大学院にいらっしゃらなければそのままここへ戻るように」
 そう言いつけてフィンを部屋の前に待機させ、屋敷の主人を訪ねるべく居場所を探し始める。ところが、使用人を捕まえ問い質す前に、騒ぎに気づいたのか誰かが報告したのか、血相を変えたジンケヴィッツ伯爵本人と出くわした。
「あなたは確か、テナ侯爵。娘の茶会でご体調を崩された方がいると伺いましたが、ご容態は。当家の医師に診察させましょう」
 クリスティアンを見つけるなり伯爵は努めて冷静に言ったが、青ざめた表情はそう簡単に元に戻らない。ということは、やはり使用人の誰かがラビニエが拘束されたことも知らせたのだろう。
 ジンケヴィッツ伯爵は、これから行われる王都周辺の軍の再編に先立って昇格し、将軍になった人物だった。ディルクは働きも人柄もいい人材を得られたと言っていた。
 その評価通り、伯爵は数度顔を合わせただけのクリスティアンのこともちゃんと覚えていて、相手が公国貴族だからといって横柄な態度をとらない。ディルクの見込みは間違っていないだろう。
 そう感じただけに、クリスティアンは残念に思った。
「ご体調を崩されたのではありません。詳しい経緯は分かりませんが、公女殿下がおっしゃるには、ご息女が故意にお茶に何かを混ぜ、それを飲んだエルツェ公爵家の姫君が倒れられたのです。公女殿下のご命令で、ラビニエ様のお身柄は殿下の騎士の長、ネーフェ将軍が預かっています」

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