天槍のユニカ



苦いお砂糖(18)

 しかし、じきに後悔することになった。
 ちょっと苦いものを入れられただけだろうと思っていたが、想像以上にまずいものを入れられていたらしい。
 四口目を飲もうとカップの取っ手にかけた指が、上手く動かない。自分の意思では動かせないのに手がカタカタと震えた。
 緊張のせいで気分が悪いのだと感じていたが、それも今や明確な吐き気に変わっていた。
(まさか、毒?)
 ユニカは震える手を見下ろしながら、どこか他人事のように考えた。ラビニエがこのカップの中にたっぷりと注いでいたあれ≠ェすべて毒だったら、さすがにこの身体でも影響がありそうだわ。
「ユニカ、どうしたの?」
 カップが不自然に震えているのを見つけたレオノーレが顔を覗きこんでくる。この席に呼ばれてからずっと不機嫌な公女の顔が二重、三重にぼやけて見えた。
 レオノーレから見ても、一目でユニカの視線に焦点がないことがわかったらしい。
「ユニカ!」



 真っ青になって額に汗を浮かべているユニカの肩を掴み、レオノーレは思わず叫んでいた。
 気分が悪いのか、激しく揺すられた形になったユニカは呻きながら口元を押さえた。
「ティアナ、見てあげて。ユニカの様子が変よ」
 レオノーレがそう言う前にティアナは席を離れていた。そしてレオノーレの脇からユニカの顔を覗きこむと、すぐさまユニカの身体を支えて立ち上がらせる。
「吐き出せるだけ吐き出しましょう」
 声を顰めるティアナにユニカが頷き返す。レオノーレもユニカに肩を貸しながら庭の池を囲っている花壇まで引きずっていく。
「ユニカ様、すぐに吐き出してください」
 ティアナは植え込みのそばでうずくまったユニカを励まし背中をさするが、彼女は浅い息を繰り返して呻くばかりだ。しばし様子を見ていたティアナは、おもむろにハンカチを取り出して自分の指に巻き、ほとんど痙攣するように震えているユニカの口をこじ開けてその指を突っ込んだ。

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