苦いお砂糖(17)
ことさら感心したように言うのは、クリスタなりにこのテーブルのぎすぎすした空気を一度整えたいと思ったからだろう。
「ええ、その通りですわ。皆さんそれぞれに違う風味のお砂糖を入れました。いかがかしら?」
「お茶が甘いのは好きじゃないわ」
レオノーレがクリスタの計らいを無視するかのように吐き棄てるので、ユニカも慌ててお茶をすすった。「おいしい」と認めるのが、ラビニエに対してもペトラに対しても、さっきの発言を水に流すという意思表示になるはずだったから。
しかし、お茶の熱とともに舌の上に広がったのは鋭い苦み。笑顔を作るはずだった頬が引き攣る。妙な味をなんとか飲みくだすものの、次に言うべき言葉に窮した。
これは香辛料の味? それにしては砂糖の甘みも何も感じない。間違えて塩を入れたのだろうか。いや、塩の味ではなかった。じゃあどうして?
「いかがですか、ユニカ様。おいしいでしょう」
混乱しながら考えていると、ラビニエが問うてきた。彼女の笑みの冷ややかさに気づいてぞっとする。
嫌がらせだ。そうぴんときた。
だが、だとしたらどう言えばいいのか……。
周りの令嬢達はこのテーブルの様子を密かに窺っている。ユニカも意識していたが、ラビニエもそのことはよく知っているだろう。味がおかしい、と訴えたらどうなるか。
「お口に合わなかったかしら」
ラビニエがやけによく響く声で言ったので、それが聞こえたらしい一番近くのテーブルに座っていた令嬢達が顔を見合わせるのが見えた。
ラビニエが小首を傾げた。ユニカの返事を待っている茶会の主人は「騒ぎを起こすつもり?」と言っているようだった。
「はい、おいしいです」
「よかったわ。ティアナ様がお持ちくださったケーキも一緒に、どうぞ遠慮なく召し上がってくださいね。ぜひ、おかわりも」
これ以上口をつけないでおこうと思ったが、一口でやめておくのは無理なようだ。何か入れられたのは間違いないが、いたずら程度なら大したものではないだろうし、半分くらいは飲んでおこう。
ラビニエのかすかな嘲笑を視界の端に捉えながら、ユニカは苦みを堪えてさらにお茶を飲む。
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