天槍のユニカ



苦いお砂糖(16)

「ペトラお姉様、少し言い過ぎでしてよ。それより、お茶を淹れなおさせてくださいまし。ちょうど皆さまに召し上がっていただきたいものが届きました」
 ユニカはラビニエが視線をめぐらせた屋敷の方を確かめた。歩いてくるのはコルネリアだった。
 彼女は自らトレーを持ってこちらへやって来る。彼女が近づいてくると、トレーに載ったのはそれぞれに違う色で花の模様が描きつけられたシュガーポットだと分かった。
 コルネリアはラビニエの元へそれらを運び、テーブルに並べながらラビニエに何ごとかを囁いた。そして顔を上げた時、ユニカを見てにこりと笑う。
 何も感じない笑みだった。取り繕った愛想も、裏に棘を潜ませているようにも思えない――笑った仮面のような表情。
 悪意すら感じないというのに、ユニカは背中が粟立つのを感じた。
「珍しいお砂糖が手に入ったのです。それぞれ飲んでみてくださいな」
 コルネリアがそれまで空にしていた席に戻ると、ラビニエはシュガーポットを順に開けた。ポットにはそれぞれ同じ意匠の花で柄を作った陶器の匙が挿してある。
 女中が新たにお茶を注いだカップをラビニエのそばへ運ぶと、彼女はシュガーポットからたっぷりと砂糖をすくい、カップの中に溶かしていく。
「あたし、甘いお茶は好きじゃないんだけど」
「さようでございますか。では、公女殿下のお茶には控えめに。――ユニカ様は、甘いのはお嫌い?」
「いえ……苦手というほどではありません」
「そう、よかった」
 ラビニエは満面の笑みで、カップの中へ二匙分の白い砂糖を注ぎ込んだ。そしてミルクも注ぎ込み、それぞれのカップをユニカ達の席へ運ばせる。
 四つのポットの中身が違うのだとしたら、砂糖は四種類。ちょうどユニカとレオノーレ、クリスタとティアナにそれぞれ違うポットから砂糖を入れられたお茶が運ばれてきた。
 レオノーレはふんと鼻を鳴らして真っ先にお茶を飲んだ。何かに気づいたようだが、特に感想は言わない。続いて口をつけたクリスタは、レオノーレと同じようにおやっという顔をした。
「すてきな香りですわ。香辛料の風味がついているのでしょうか」

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