天槍のユニカ



苦いお砂糖(9)

「そういう意地悪をおっしゃった時は、わたくしがはっきり申し上げます。ユニカ様はこういう場に不慣れなので、ご一緒させていただきます、と」
 ふんわりした優しげな容貌と雰囲気に似合わず、クリスタはこういうきっぱりしたところがある。彼女の気遣いと、彼女を紹介してくれたディルクには感謝してもしきれないと思った。
「ユニカ様と王太子殿下はお幸せなようですけれど、コルネリアさんは災難でしたわね」
 同じく隣のテーブルをちらりと窺い、ヘレンが言った。
「災難って?」
 空のカップをもてあそびながらレオノーレが尋ねる。まだまだ楽しみがありそうだという顔である。人の災難を楽しむのはどうかと思ったが、ユニカをこの茶会に巻き込んだ張本人の名前に惹かれ、ユニカもつい耳をそばだてた。
「コルネリア様も、今年でこのお茶会が最後のご予定だったのです。ですが、」
「ヘレンさん」
 ところが、ラモナが苦い顔でヘレンの声を遮った。それでしゃべり出そうとしていた本人も我に返ったらしく、気まずそうにうつむいて手元のお菓子をつついた。
「いけませんわね、他人の不幸をおしゃべりの種にしてしまうのは」
「なによ、大したことじゃないわ。あの女に何かあったの?」
 レオノーレはまたもやヘレンにすり寄り、にんまりと笑いながら彼女の口元に焼き菓子を運んだ。公女が手ずからお菓子を食べさせようとしてくることがなおさら気まずいようで、ヘレンはそれ以上口を開こうとしなかった。
 そんな二人を見ながらユニカはぼんやりと考える。茶会に招かれなくなるということは、クリスタ達の例に見るように『結婚する』ということ。「最後の予定だったのに」とは、結婚の話になんらかの不都合が生じたという意味だろうか。
「あのぅ」
 テーブルの上に妙な雰囲気が漂う中へか細い声が割り込んできたので、ユニカははっとして振り向いた。見れば、三人連れの令嬢達が恐る恐るといった様子で声を掛けてきた。
「わたくし達も、こちらのお席に混ぜていただけませんか?」
 彼女達はまたもやよく似ていた。髪色やドレスの色が違っても、面はゆそうな、それでいて好奇心の滲んだ表情は一緒だ。

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