天槍のユニカ



苦いお砂糖(8)

 ディルクが眺めてにまにましているというのは初耳だった。気に入ってくれたということが分かったのは嬉しいが、あっさりと暴露してしまったレオノーレの口を塞ぐ術は、向かいに座っているユニカにはなかった。
「栞! それも素敵ですわね。いつでも持ち歩けますもの」
 焦ったユニカは口をぱくつかせて取り繕う言葉を探したが、別に取り繕う必要はない話だと気づいて、さらになす術がない。しかし、ヘレンは今の話を気に入ったらしい。
「ティアナさんは? 昨年、公子様がシヴィロに滞在なさっている時に、お会いしたのではありませんか?」
 水を向けられたティアナは口をつけようとしていたカップを置いた。ヘレンが本当に訊きたいことを知っている様子で、なんだか含みのある笑みを浮かべる。
「わたくしは、もうお袖口を飾るレースは差し上げましたわ。あの時は、婚約の話はまだ秘密でしたから、レースをお渡ししたのも内緒で、でしたけれど」
 確かめたいことを直に聞くことができ、ヘレンはうっとりしながら溜め息をついた。ついでにラモナも。
「ユニカ様も、早く殿下にお袖口を飾るレースを差し上げなさいませ。殿下はきっとお喜びになるでしょうし、ユニカ様のお心の在り処が分かって安心もなさるでしょう」
「そうよぉ。自信ありげに振る舞ってても、男って不安に思ってるらしいわよ。おまけにユニカは甘え下手だし。もっとはっきりディルクに愛情表現をしてあげないと」
 ティアナとレオノーレから順に責め立てられ、ほか三人からも熱い賛同の視線を向けられる。ユニカは仕方なく「では、近いうちに……」と答えていた。
 そのか細い返事を掻き消すように近くのテーブルで笑い声が上がる。そちらのテーブルもそれなりに楽しそうだ。
 見れば、いつの間にかそのテーブルにはコルネリアが混じっていた。彼女は参加者を順にラビニエのテーブルへ呼びに行くほかは、若い主催者のそばに付き添っているものと思っていたが、そうでもないらしい。
「そちらのテーブルまで招待¥が回っているようですわね。そのうちこちらにもいらっしゃるでしょう」
 コルネリアの姿に気づいたクリスタが耳打ちしてきた。この茶会の恐ろしい仕組みを知ったユニカは、背筋を冷たいものでなぞられたような気がした。テーブルの並び順でラビニエのところへ呼ばれるなんて。
「わたしだけ連れて行かれるということもあるのですか……?」
 それが一番の懸念だ。あの冷たい表情の少女と彼女の取り巻きに囲まれて、まともな受け答えができるだろか。何か粗相があれば、今日まで様々な知識を詰め込んでくれたエリュゼやヘルミーネ、クリスタにも恥をかかせることになってしまう。

- 1281 -


[しおりをはさむ]