天槍のユニカ



苦いお砂糖(7)

 ティアナの言葉を聞いてはっとした。そういえば、ユニカもエイルリヒから立儲の礼に招待されているのだった。
 ユニカはエイルリヒの命を救ったという経緯があるが、それはおおやけにされなかったこと。その程度の繋がりしかないが、エイルリヒ個人がぜひ恩人を招待したいと思ったのなら、そうなのだろう。
 そのような薄い繋がりでユニカが招待されるなら、婚約者たるティアナも招かれて当然だ。彼女はユニカが招待されていることも知っているようだった。
 ただし、クリスタ達にそれを教えてよいのかは、判断がつかない。
「私自身は暇なつもりなのですが……プラネルト女伯爵や継母(はは)にもそういう集まりを開いてもよいか、相談してみます」
 クリスタ達はちょっと残念そうな顔をしたが、無難な断り方ではあったらしい。いずれユニカから返答があるものという期待は残せるわけだから。
 確かに最近、ウゼロ公国の歴史や文化についての講義が増えているので、午前中は忙しい。教師を寄越しているのはエルツェ公爵夫人だ。ユニカの公国行きを見越してのことだろうが……午後は施療院の仕事も手伝いたいし、ユニカが自分で言うほど実は暇ではない。
 教室はともかく、茶会の準備にどれくらいの手間がかかるのかを知らずに返事はできなかった。何しろ参加するだけで大変なのだ。主催者はもっと大変なはずである。
「そうですか……。お母上のお許しがあったら、ぜひ教室を開いてくださいましね。レースのことは本当に困っていますの。でも、わたくしはともかく、お上手なユニカ様なら、もう王太子殿下にお贈りしたことがおありなのでしょうね」
 残念そうな表情から一転、ヘレンは好奇心を隠しきれない様子でそう問うてきた。少しくらい隠そうとしたのは、王族の話題にどれくらい触れてよいか探りながらであったからだろう。
 なんにせよ出し抜けな質問だったので、ユニカは答えに窮した。
 確かに贈った。贈ったけれど、それは多分、伴侶にレースを贈るという意味ではなかった。少なくともあの時は。
「ディルクの生まれ月のお祝いにレースの栞をあげてたわよね。ディルクはよっぽど嬉しかったみたいよ。見せてって言っても見せてくれないんだもの。抽斗にしまって、時々眺めてにまにましてるってルウェルが言ってた。あ、ルウェルっていうのは、王太子付きの騎士のことなんだけどね」

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