天槍のユニカ



苦いお砂糖(6)

 香水のイメージを手帳に書き付けたラモナは、やにわにそう尋ねてきた。特技繋がりの話題のようだ。
 なぜラモナがそんなことを知っているんだろうと思いつつ、ユニカは頷く。
「自慢できるような腕ではありませんが……」
「自慢できることですよ! 先日のエルツェ公爵夫人のお茶会の時に、プラネルト女伯爵から伺いました。ユニカ様は、新年をお祝いするタペストリーを教会に納めていらっしゃるって! 施療院から裁縫のお仕事も任されているのでしょう? パウル大導主猊下が、ユニカ様のレースをご所望なのだとも伺いました」
 クリスタが自分のことのように力を込めて言うと、彼女の友人達は感嘆した。二人からきらめく眼差しを向けられ、ユニカはずいぶん口が軽かったあの日のエリュゼをちょっとだけ恨んだ。いや、みんなを楽しませられる話題ができたのなら、感謝すべきだろうか?
「羨ましいですわ。わたくしはラモナさんのような特技もなければ、レースを編むのも苦手で……。そうだわ。ユニカ様、今度、教室を開いてくださいまし」
「教室?」
 ユニカはヘレンの言葉を繰り返して目を瞠る。
「本当にお恥ずかしいのですが、母から下手だ、下手だと叱られてばかりで。嫁ぐ前にもう少しくらいは上手になっておきたいのです。職人に任せていいものではあるのですが、やっぱり、一つくらいは夫の袖口を飾るレースを自信を持って完成させたいですもの」
 それはつまり、ユニカにレースの編み方を教わりたいということだろうか。恥ずかしそうにうつむくヘレンの向かいで、ラモナも頷いている。
「ちょうどよいのではありませんか? メヴィア家のジゼラ様も教わりたいとおっしゃっていましたもの。ティアナも上手なのですよ。ユニカ様とティアナを先生にして、レース教室のお茶会! どうでしょう?」
 それは教室が主なのか、お茶会が主なのか。疑問に思うユニカを間に挟んで、クリスタのひらめきにラモナとヘレンは惜しみない拍手を送っている。
 いや、そんなことよりも。人にものを教えるのはあんまり得意ではないと、ユニカは自分で気づいていた。この三ヶ月ほどエリュゼに刺繍を教えているが、彼女の上達具合は遅々としている。ユニカの教え方がよくないのだろう。
「わたくしは、残念ですがご遠慮いたします。秋にある公子様の立儲の礼に参列することになっているので、もう少ししたら準備に追われる日々になると思いますの。ユニカ様もお忙しいのではなくて?」

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