天槍のユニカ



苦いお砂糖(5)

 とはいえそんな想像を言葉にするわけにもいかず、嫁入り前の良家の令嬢達は視線を泳がせたり急な咳払いをしたりする。
「そういえば、今日お召しのドレスも矢車菊の柄ですものね。イヤリングと髪飾りも。そろいでお作りになったのですか?」
「違うのよ。宝石の方はディルクからユニカへの求愛の贈りものなの。ドレスは、この柄を見つけてユニカが自分で――」
「――実物の矢車菊も好きです! 目が覚めるような青色で、あの、紫色のもきれいですよね」
 レオノーレの声を遮るため、ユニカはとっさにそう言っていた。思いのほか声を張ってしまったと気づいたのは、ヘレンやラモナがきょとんとしていたからである。気づいてからは首から上に火が点いたような気分だった。
 ドレスの柄はディルクから貰った宝石に合わせて自分で選んだと知られるのと、どちらが恥ずかしいか、もうぜんぜん分からない。
 羞恥のあまり縮こまっていくユニカを見て、ヘレンもラモナもくすくす笑った。
 さげすむような笑いではない。おかしくて仕方ないのを、お上品に、どうにか堪えているというふうだ。
「ユニカ様も、そうして慌てたり大きな声を出したりなさるのですね」
「矢車菊に例えるなら、きっとふわふわの八重咲きのほうがユニカ様にお似合いですわ」
 どうしてそう思ったのか知らないが、ラモナが言うと、ヘレンばかりかレオノーレやクリスタも賛同した。
「八重咲きの矢車菊って、花びらの一枚一枚は鋭く見えるけど、たくさん集まって結局丸くなってるのよね。確かにユニカっぽい」
「わたくしは、初めてユニカ様にお会いした時から、きっと中身はふんわりまん丸な方なのだと感じておりました」
 レオノーレの言葉もクリスタの言葉もいい加減だと思ったが、そう思ったのはユニカだけらしい。クリスタが連れてきた二人の令嬢もユニカに対する最後の緊張感が解けたと見え、そのいい加減な話をもとにユニカを「ふわふわ認定」し、ラモナがつくる香水は八重咲きの矢車菊をイメージすることに決まった。
「そういえば、ユニカ様はレースづくりや刺繍がお上手だと伺っておりますわ。もう長いことお作りになっているのですか?」

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