天槍のユニカ



苦いお砂糖(4)

 またラモナから花束のようなよい匂いを感じる。その香りの心地よさもすぐに見失ってしまいそうなくらい、ユニカはびっくりした。
 お近づきの印に。そうか、自分とラモナは今お近づき£なのか。
 こそばゆさに戸惑い黙っていると、レオノーレがわざとらしく歓声をあげた。たぶん、周りのテーブルにこちらが楽しんでいる、仲良くやっていることを知らしめるためだ。
「じゃあお願いするわ、ラモナ。要望は聞いてくれるの? あたし、華やか≠チていうのは散々言われてきて飽きてるのよね。そういうのじゃない香りがいいわ」
「それでしたら、殿下のご紋章の月下美人はいかがでしょう。あの花そのものの香りも素晴らしいですが、それを再現するのではなくて、闇夜に凜と咲く花の姿をイメージした香りにするというのは」
「いいわね。あなたの表現力に期待しておく」
 創作意欲に駆られたラモナは、うきうきした様子で頷き、手帳を取り出して何かを書き付けていた。
 そうだ、手帳。
 ユニカは自分も持ってきている便利なものの存在を思い出した。あとで書いておかねばならない。ラモナは香水作りが趣味。
 まずは頭の片隅に書き留めておく。
 ティアナは特に要望はないということだったので、ラモナの想像力が描く未来の大公妃、という大げさなテーマの香りになるらしい。どういう香りなのかユニカにはまったく想像できない。
「ユニカ様は、何かお好きな香りは?」
 趣味の話で熱が入っているせいだろう。そう尋ねてくるラモナの表情に、ユニカと話すことへのたじろぎはもはやない。
「私も特に、これといって好きな香りはないのですが……」
「そうですか。では、ラベンダーの香りをもとにするのはいかがですか? 青いお花と安らぐ香りのイメージが、ユニカ様にとてもよくお似合いだと思うのですが」
 安らぐ……と言われると不思議な感じがしてたまらない。ラモナは自分のどこに安らぎを感じたのだろう? また返事を濁していると、レオノーレがにまにまと笑いながら横槍を入れてきた。
「ラベンダーの香りは、ディルクもよく眠れていいかもね。でもその前に矢車菊よ。この花はね、ディルクとユニカにとってすごーく大事な花なの」
 それを聞いたラモナとヘレンの頬が見るからに赤くなった。レオノーレが「夜、眠る時にユニカとディルクが一緒にいる」ということを分かりやすく匂わせたのへ、見事に引っかかったらしい。

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