苦いお砂糖(3)
ユニカの隣に座っていたラモナは、まさに頬張ろうとしていたケーキを置いてもじもじと肩をすぼめた。
「はい、ちょっとした趣味でして……」
そんな特技もあるのか。ユニカは純粋に感心する。
そういえば、先ほどからそよ風の向きによっては、ふんわりとよい香りがしている。テーブルに飾られた花の香りだと思っていたが、気をつけて感じてみれば、そのみずみずしく華やかな香りはラモナがまとっているもののようだ。
「もしかして、ご自分の香水も?」
気になったことがそのまま口をついて出る。これまで、ユニカは話を振られると応える形でしか会話にのることができなかったので、自分から声をかけたのは初めてだった。
するとラモナは大きく目を瞠った。彼女も驚いたらしいが、照れながらも頷いてくれた。
「はい、そうです。ユニカ様のお好みには合わない香りでしたか……?」
「いいえ……ただ、そこに活けてあるお花の香りだと思っていました。甘い香りですが、とても自然で、みずみずしくて」
これで褒めたことになっただろうか?
ユニカは内心恐々としながら感じたままに言ったが、ラモナはその言葉を気に入ってくれたようだった。
「ありがとうございます。香料には、少しこだわりがありますの。自然なお花のような香りにしたくて」
「ラモナさんの香りのセンスは素晴らしいですわ。わたくしも、昨年の生まれ月のお祝いにひとつ香りを作っていただいたのですが、もったいないからちっとも使えないくらい気に入りました」
「クリスタさんに差し上げた香水のレシピはちゃんと保管してありますわ。遠慮なく使ってくださいまし」
「でも、その年の気候や香料の質でも変わってしまう香りがあるのでしょう? わたくしはあの香りがいいのです」
クリスタが力をこめて言うと、ラモナはますます気をよくしたようである。
「よろしければ、お近づきの印にユニカ様にも香水を作らせてくださいませんか。公女殿下とティアナさんにも」
ラモナの表情には、先ほどユニカに声を掛けられた時の驚きに代わって、きっかけを掴んだという嬉しさが滲んでいた。
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