苦いお砂糖(1)
第5話 苦いお砂糖
ラビニエが自分のテーブルに戻って以降、お茶会は和やかに進んだ。
席の移動は好きなようにしてよいらしい。芝生に布を敷いた席にもいつの間にか五人の令嬢達が座っている。普段は背筋を伸ばして椅子にかしこまっていなくてはならないので、多少行儀悪く脚を伸ばして座るのも楽しいのだろう。
ラビニエは取り巻きの三人を使って、順々に令嬢達を自分のテーブルに呼んでいた。自分が呼ばれる気配はまだないが、呼ばれないなら呼ばれないでありがたい。
コルネリアに連れられてラビニエのもとへ向かう二人の令嬢を横目で追いつつ、ユニカはそう思っていた。
遠目に見ると、コルネリアもラビニエもにこやかだ。ほかの令嬢達も。みんなそこそこ楽しんでいるように見える。これが水面に見える穏やかさに過ぎず、その下では彼女達が非常に神経を使って駆け引きに臨んでいるとは思いたくない。
ラビニエの冷たい視線で十分肝を冷やしたので、これ以上は何ごともなければいいなと祈るばかりだ。
ユニカ達が座っているテーブルにも、先ほどクリスタと一緒に顔を見せに来たラモナとヘレンが再び訪れていた。
「さすが、木苺高地の果実酒ですわ。まだ熟成途中のものも、こんなに爽やかで美味しいのですね」
ゼートレーネの木苺で作った酒は彼女らにも好評で、ちょうどそれに口をつけていたラモナが高い声で驚いた。
「お口に合ってよかったです。先月仕込んだばかりで、夏が終わる頃までは寝かせておいた方が甘くなって美味しいらしいのですが……砂糖が溶けていれば飲めるそうなので、持ってきてみました」
ユニカが応えると、ラモナはややぎこちなく笑い返してくれる。お互いにまだ緊張しているのが分かるけれど、ラモナの笑みには嫌なものを感じなかった。
「煮詰めて酒精(アルコール)を飛ばしてシロップにしても、甘酸っぱくて美味しいでしょうね」
そう言ったのはティアナで、向かいでクリスタが深く頷いた。
「ケーキに入れる果物を煮るのに使ってほしいわ」
「いいわね、お酒の風味が残っていいソースもできるわ」
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