天槍のユニカ



棘とお菓子(19)

 当然のこととしてそう言い、ティアナはユニカの言葉を遮った。
 彼女の、穏やかだが曲がることのない意思を感じて背筋にぴりりと冷たいものが走る。
 ティアナも、ユニカを妃≠フ立場に押し上げようとしている。そして、それは彼女がレオノーレやユニカではなく、まずディルクの味方であるからな気がした。
 なぜ、どうして。シヴィロ王国を出ていく彼女にとって、王太子との繋がりはまだ必要なことなのだろうか。
 皆の思惑の深淵は分からないながらも、この会場にはユニカのことを認めない者達と、ユニカを将来の玉座の隣に座らせようと考える者達がいることは確か。
 様子を見ている者が大半だが、二つの考えが対立し渦巻いている。少しの火花が弾けるくらいで済めばいいけれど……。
 いや、と、ユニカは思い直す。
 自分がどちらにも乗らなければいい話だ。とにかく今日は、会う人に明るく笑い返し、揉めごとを避けてやり過ごし、城へ帰る。
 ディルクも言っていたではないか。思惑のない人間がいない世界だけど、それでも楽しんでくればいいと。
 屋敷の中から時計の鐘の音が聞こえてきた。茶会が始まる時刻だ。
 令嬢達はあいかわらず動揺しながらひそひそと言葉を交わしていたが、鐘の音が聞こえ、主催者のラビニエが庭園へ現れると、ひとまずユニカやティアナ、レオノーレの存在を忘れることにしたようだ。
 ラビニエは、コルネリアのほかに二人の令嬢を従えて順番にテーブルを回っていった。あの三人がラビニエお気に入りの娘達なのだろう。
 遠目に見ても艶やかな黒い巻き髪が、小柄なラビニエの背中でふわふわと揺れている。コルネリア達より背は低いのに、堂々と前を歩くせいか、その少女はひどく大人びて見えた。
「あらまぁ。チビのくせに、一丁前に女主人気取りね」
 レオノーレはラビニエをそう嘲ったが、ユニカは少し感心していた。確かにラビニエは子どもだが、年上の令嬢達を相手に少しも後ろへ退くことがない勝ち気な様子は、どこぞの公女殿下を思い出させる。
「ちょっとレオみたいだわ」
「あたしはあんなにチビじゃないわよ。もっと背が高いし美人でしょ。一緒にしないで」
 ユニカは背や容姿のことに触れたつもりは毛頭なかったのだが、レオノーレが本気で目を吊り上げ怒ったので速やかに前言を撤回した。

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