天槍のユニカ



棘とお菓子(18)

 ティアナはより親しいはずのクリスタとレオノーレを差し置いて、一番にユニカの手をとってそれに口づけた。
 親しさや友情ではなく、恭順を示す挨拶――未来の大公妃が、王太子の寵姫へ。
 驚きと困惑に満ちたどよめきが令嬢達の間に広がる。
 ユニカも息が止まりそうになった。
 ユニカが王太子妃であれば、それは順当な挨拶であっただろう。しかし、実際は違う。違うけれど、この態度はティアナがユニカに敬意を持って接することを――ユニカを王太子の傍らにある者として認めたことを示すようなものだ。
 王太子の元侍女は顔をあげ、優雅に微笑みながら真っ直ぐにユニカを見つめてきた。
 それも、ティアナが侍官であった頃には見なかった表情だ。
 いずれは己が公国で最高の地位を占める女性になることを知っている、矜恃に満ちた上に立つ者の目。それだけの力が自分にあることを知っている者の目。
 絶句しているユニカに代わって、レオノーレがティアナに椅子を勧める。そう遠くないうちに義妹となる娘を隣に座らせて、公女はふんぞり返った。
「あたしが呼んだのよ。女のしがらみに斬りこむには、次の大公妃ほど強力な助っ人はいないでしょ」
「お力になれますかどうか……まだわたくしにはなんの権限もありませんのに。でも、シヴィロにいるうちに皆さまとの親交を深めておくのはよいことだと思いまして、ラビニエ様にお願い≠オました」
 ティアナはしゃあしゃあと言った。自分の行動が令嬢達に与える衝撃を分かっているとしか思えないが、あくまでクリスタやユニカとの再会を喜び、いずれ義姉になるレオノーレとのお茶を楽しみにきただけ、という主張を通すつもりらしい。
「わたしもティアナには様≠付けた方がいいのかしら?」
「やめてちょうだい。ついこの間まで同僚だったでしょう。今まで通り気安く呼んで貰った方が楽だわ」
 ティアナが答えると、聞いたクリスタもそう言われることを分かっていたのだろう、気の置けない仲だと分かる笑顔で頷く。
「ユニカ様も、どうぞわたくしのことは『ティアナ』とお呼びください」
「それなら、私のことも――」
「いいえ、そうは参りませんわ。ユニカ様は王太子殿下の大切な方。公女殿下と同じく、いずれわたくしの義姉上になる方でもあるのですから」

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