天槍のユニカ



棘とお菓子(17)

「わたくしはこちらの席へ移りますわ。ラモナさん、ヘレンさん、またあとでお話ししましょう」
 ラモナとヘレンはひらひら舞うのを楽しむ蝶のように軽やかに微笑んで頷き、あとから再び訪ねてくることを約束してもとの席へ戻っていく。
「二人こっちに寝返りそうね」
「寝返り?」
「あ、あのお二人も、何度もこのお茶会にいらしているのですか?」
 レオノーレが呟いたのを隠すようにして、ユニカはそそくさとクリスタに席を勧めた。ユニカの隣に落ち着いた彼女は、先に腹ごしらえを始めている公女の呟きはそっとしておくと決めたらしい。
「はい。いつも仲良くしていただきました。ですが、あのお二人も今年が最後だろうと」
 クリスタはこの秋に結婚する。それゆえ、令嬢≠ェ集まるこの茶会に招かれるのは今年が最後だと言っていた。クリスタと歳が近そうなあの二人も結婚の適齢期を迎えているので、そういう予定があるのだろう。
「なるほど、今年が最後だからラビニエの不興を買っても平気ってわけ」
「大きな声では申せませんが、公女殿下のおっしゃる通りです。それと、密かに期待するところとしては、やはりユニカ様とよしみを通じておきたいのです。ユニカ様は、今後の社交界の中心になられるお方かも知れませんから」
 またクリスタはそんな大それたことを言う……。ユニカは辟易し反論しなかったが、うんざりしているうちに再び静かなざわめきが起こったことに気がついた。新たな客が到着したようだ。
 どんな令嬢か、探すまでもなかった。庭園の入り口に現れたのはユニカも知っている人物で、なおかつ、彼女は女中の案内を断り、まっすぐこちらに向かってきたからだ。
「ティアナ!」
 嬉しそうに声をあげたのはクリスタとレオノーレ。ほぼ同時だった。二人は束の間顔を見合わせるが、やって来た当人はかつての同僚と、未来の義姉の両方に笑いかけた。
「お久しぶりでございます、ユニカ様」
 クリスタと同じく、侍女としてディルクに仕えていた、そして未来の大公妃の椅子を約束されたティアナである。
 久しぶりに姿を見た彼女は、王城で会っていた時とずいぶん印象が違った。今日の衣裳は赤い小花を散らしたくすんだ薔薇色で、彼女自身の落ち着いた雰囲気はそのままだが、離れたところからでも目に入るような存在感がにじみ出ていた。ディルクの影に潜んで動いていたのが嘘のようだ。

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